シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 しばらく歩いてから、梨来は自分の肩がほとんど濡れていないことに気づいた。

 隣を見る。

「あ」

 直充の肩だけが、雨に濡れていた。

「直充くん、濡れてるよ」

「どこがですか?」

「肩」

 直充が自分の肩を見る。

「ああ」

「ああ、じゃないよぉ」

「これくらい平気です」

「平気じゃないよぉ。傘、もっとそっちにして」

「梨来さんが濡れますよ」

「でも」

「梨来さんが濡れるよりいいです」

「…………」

 また、そういうこと言う。

 梨来は直充の横顔を見つめた。

 本人は何でもないことのように前を向いている。

 ずるい。

「……真ん中にして」

「でも」

 直充が梨来を見る。

「梨来さんが濡れますよ」

「だから」

 梨来は少しだけ迷ってから、直充の方へ身体を寄せた。

「直充くんが濡れる方が嫌」

「…………」

 目が合う。

 口にしてから、自分の言葉が急に恥ずかしくなった。

 でも、今さら取り消す気にもなれない。

「あの――」

「分かりました」

 直充はそれ以上何も聞かず、傘を中央へ戻した。

「……うん」

 肩が触れそうになる。

 さっきは近さを意識して離れたのに、今度は自分から近づいた。

 それでも、不思議と離れようとは思わなかった。

 直充くんは、平気なのかな。

 そっと横を見る。

 直充は前を向いたまま、傘を持つ手の位置を一度だけ直した。

 梨来も前を向く。

 それだけなのに、また胸が鳴った。