シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 午後。

 事務室近くの休憩スペースで、梨来は希美と向かい合っていた。

 窓から差し込む光はまだ明るい。けれど、朝に確認した天気予報では、夕方から雨になるはずだった。

「希美ちゃん、今日傘持ってきた?」

「え?」

 希美が窓の外を見る。

「傘ですか?」

「うん。夕方から雨だよぉ」

「こんなに晴れてるのに?」

「朝、天気予報で見たから」

「…………」

「希美ちゃん?」

「私、持ってないです」

「あら」

「朝晴れてたから、天気予報見てなかった……」

「帰る頃には降ってるかも」

「ええー……」

 希美が困ったようにもう一度窓の外を見る。

 梨来はそんな希美を見てから、足元に置いていた鞄へ手を伸ばした。

「じゃあ、これ使う?」

「え?」

 鞄から折り畳み傘を取り出し、希美へ差し出す。

「これ、梨来さんのですよね?」

「うん」

「じゃあ梨来さんが困るじゃないですか」

「大丈夫だよぉ。私、二つ持ってるから」

「二つ?」

「うん。念のためにね」

「さすが梨来さん……」

「ふふ。でしょ?」

 梨来が笑って傘を差し出す。

「でも、本当にいいんですか?」

「いいよぉ。希美ちゃん、これからまだ講義あるんでしょ?」

「はい」

「じゃあ持ってって。帰りに濡れちゃうよ」

「……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 希美は折り畳み傘を受け取り、自分の鞄へしまった。

 梨来はその手元を見ながら、そっと自分の鞄を閉じる。

 二本目なんて、入っていない。