シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 梨来はスマートフォンへ目を落とした。

 今日、登録されたばかりの名前。

『直充くん』

 少し迷ってから文字を打つ。

『迷子の男の子、見つけたって聞いたんだけど』

 送信。

 しばらくして。

『はい』

 返事が来た。

『怪我はなかった?』

『大丈夫だったみたいです』

 梨来の表情が緩む。

『よかった』

 送信。

 少し考えて。

『みずなみ広場にいたんだよね?』

『はい』

 短い返事。

 梨来はその文字を見つめる。

 聞こうと思えば聞ける。

 どうして、みずなみ広場へ行ったの。

 どうして、あんなに迷わず走っていたの。

 けれど、指は動かなかった。

 今、問い詰めるように聞く理由はない。

 それより、もう一つ気になっていることがあった。

『直充くんは、危ないことしなかった?』

 送信。

『大丈夫です』

『本当に?』

『はい』

『ならいいけど。直充くんも気をつけてね』

 少しして。

『分かりました』

 梨来は、その返事に小さく笑った。

『よろしい』

 送信。

 すると。

『梨来さん、先生みたいですね』

「…………」

 梨来の指が止まった。

『先生じゃないです』

 すぐに返信が来る。

『知ってます』

「…………」

 梨来は画面を見つめた。

 初めて会った日、先生だと勘違いされたことを思い出すと、さっきまで胸の隅にあった硬いものが少しだけ柔らかくなる。

「ふふっ」

 小さく笑った。

 直充を、任務で誰かを見るような目では見たくない。

 ただ。

 今日、人混みの向こうで見た背中だけは、忘れられなかった。

 迷わず走っていた。

 その小さな違和感だけが、梨来の中に静かに残っていた。