シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 梨来は自宅へ向かいながら、スマートフォンを見ていた。

 捜索されていた男の子は、無事に見つかったらしい。

「よかったぁ……」

 思わず声が漏れる。

 七歳。

 まだ一年生。

 朝まで雨が降っていた日の川沿い。

 もし本当にそこにいたのなら、無事だったという事実だけで胸を撫で下ろしたくなる。

 そのとき、近くを歩いていた学生たちの会話が耳へ入った。

「見つけたの、誠星大の学生らしいよ」

「そうなの?」

「うん。みずなみ広場で見つけたって」

「へえ、すごいね」

「名前、確か……直充って――」

「…………」

 梨来の足が止まった。

「直充くん……?」

 今日、見た。

 人混みの中を走っていく直充。

 呼んでも振り返らなかった。

 そして、何より。

 迷っていなかった。

 分かれ道でも、曲がり角でも、一度も立ち止まらず、地図も見ずに走っていた。

「…………」

 梨来はスマートフォンを握る。

 迷子の捜索場所は一つではなかった。

 公園。

 図書館。

 駄菓子屋。

 駅。

 友達の家。

 住宅街。

 川沿い。

 梨来自身、耳に入った情報を整理しても、どこにいるのかなんて分からなかった。

 でも、直充はみずなみ広場で想真を見つけた。

「…………」

 どうして。

 そんな疑問が浮かぶ。

 けれど、すぐに別の考えも浮かんだ。

 母親は川沿いにも行ったことがあると話していた。

 直充がその情報を聞いていた可能性はある。

 危険な場所から優先して探しただけかもしれない。

 それに、昨日。

 台車の僅かな動きにも気づいた人だ。

『やっぱり、よく見てるねぇ』

 自分で、そう言った。

「…………」

 直充なら、何かに気づいたのかもしれない。

 自分が見落とした何かに。

 それでも、梨来の中にはほんの小さなものが残る。

 あの走り方。

 迷わず走っていた。

「…………」

 梨来は小さく息を吐いた。

「考えすぎだよね……」

 今日のことだけなら説明はできる。

 何もおかしくない。

 それでも、小さな違和感を忘れないこと。

 それはエージェントとして、何度も教えられてきた。

「…………」

 覚えておく。

 ただ、それだけ。