シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 直充は想真から目を離さない。

「大丈夫。お母さんも想真くんを探してる」

「…………」

「一緒に帰ろう」

「ママのとこ?」

「ああ」

 想真の目に、みるみる涙が溜まっていく。

「ママに会いたい……」

「会えるから」

「ほんと?」

「ああ」

 直充はゆっくり手を伸ばした。

「こっちに来られるか?」

「……うん」

 想真が一歩踏み出す。

 その瞬間。

「あっ」

 濡れた地面で白いスニーカーが滑った。

 小さな身体が川の方へ傾く。

「……っ!」

 直充はすぐに腕を伸ばし、想真の腕を掴んで自分の方へ強く引く。

 小さな身体が直充の胸へぶつかった。

「大丈夫か?」

「…………」

 想真は目を丸くして直充を見上げる。

 直後、その顔がくしゃりと歪んだ。

「ママぁ……!」

 堪えていたものが切れたように、涙が溢れる。

「ママぁ……! ママのとこ行く……!」

「ああ。行こう」

「ママに会いたいぃ……!」

「今から会えるから」

「……ほんと?」

「ああ」

 想真は泣きながら何度も頷いた。

 直充は一度だけ川を見る。

 濁った水。

 速い流れ。

 未来で見た救急車。

 母親の叫び声。

 あと少し遅かったら。

「お兄ちゃん……」

「ん?」

 想真が涙を拭いながら、直充を見上げる。

「ママ、怒ってる?」

 直充は少し考えた。

「心配してる」

「……ぼく、怒られる?」

「それは分からない」

「…………」

「でも、会ったら喜ぶと思う」

「ほんと?」

「ああ」

 想真は鼻をすすり、小さく頷いた。

「……ママのとこ行く」

「行こう」

 直充は想真を川から離し、母親の待つ場所へ連れていった。