シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 帽子。

 まだ地面には落ちていない。

 小さな頭の上にある。

 黄色いTシャツ。

 紺色の半ズボン。

 白いスニーカー。

「…………」

 いた。

 胸の奥に詰まっていたものが、ほんの少しだけ緩む。

 間に合った。

 まだ、想真は川へ落ちていない。

 想真は直充に気づいていなかった。

 川のそばにしゃがみ込み、水際をじっと覗き込んでいる。

「あっ」

 小さな声が聞こえた。

「いた」

 想真が少しだけ身を乗り出す。

「なんかいる」

 水の中で何かが動いたのか、顔を上げると、その行方を追うように川沿いへ一歩進む。

「そっち行った」

「想真くん」

「…………」

 今度は少し近くから呼ぶ。

 ようやく想真が振り返った。

「だれ?」

「そこから動かないで」

「…………」

 想真は不思議そうに直充を見る。

 まだ泣いてはいない。

 けれど、直充を見たあと、ふと周りを見回した。

 川。

 遊歩道。

 知らない大人。

 想真の表情が変わる。

「……ママ?」

「お母さんが探してる」

「ママ、どこ?」

「今、想真くんを探してるよ」

 想真は直充の後ろを覗くようにした。

「ママ、いない?」

「ああ。でも、すぐ会える」

 さっきまで水の中を追っていた目が、不安そうに揺れる。

「ぼく、見ててさ」

「ああ」

「ちっちゃいの、いてさ」

「そうか」

「いっぱい、いてさ……」

 そこで言葉が止まる。

「ママもさ」

「ああ」

「うしろにいたのにさ……」

 想真が辺りを見回す。

「いなくなっちゃった……」

 声が小さくなる。

 さっきまで楽しかったのだろう。

 もう少し見たい。

 あっちにもいる。

 そんな気持ちだけで、母親が後ろにいると信じたまま、ここまで来た。

 けれど今、初めて自分が一人なのだと気づいた。