シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 大学を出てしばらく歩いたところで、切羽詰まった声が聞こえた。

「想真!」

 直充が足を止める。

「想真ー!」

 少し先に、一人の女性と警察官がいた。その周囲では家族や知人らしい人たちも、落ち着かない様子で行き来している。

 ただ事ではない。

 直充は少し離れたところで足を止めた。

「もう一度確認します。最後に姿を見たのは何時頃ですか?」

「三時前です。スーパーで買い物してて……本当に少し目を離しただけなんです」

 女性の声が震えている。

「お子さんのお名前は?」

「想真です」

「年齢は?」

「七歳です。一年生で……」

「今日の服装をお願いします」

「黄色のTシャツに紺色の半ズボンです。白いスニーカーで、黄色い帽子も被ってます」

 母親は話しながら、何度も周囲を見ていた。

 今にも、どこかから息子が戻ってくるのではないかと。

 そんな期待を捨てられないように。

「一人で行きそうな場所に心当たりはありますか?」

「中央公園にはよく行きます。図書館も……商店街の駄菓子屋さんも好きです」

「他には?」

「電車を見るのが好きだから、駅に行ったかもしれません。学校のお友達の家にも……住宅街の方を一人で歩いたこともあります。それから、前に川沿いへ一緒に行ったこともあって……でも、川には一人で行かないように言ってあります。他にも――」

 母親の口から、いくつもの場所が挙がる。

 公園。

 図書館。

 駄菓子屋。

 駅。

 友達の家。

 住宅街。

 川沿い。

 どこへ向かったのかを絞り込めるほどの手掛かりはない。

 警察官たちは聞き取った内容を確認しながら、それぞれ動き始める。

 家族や知人たちも、思い当たる場所を探しに向かっていった。

 直充は少し迷ったあと、母親へ歩み寄った。

「すみません」

「……はい?」

「俺も近くを探します」

「え……」

「服装と名前は聞こえてました。写真、見せてもらえますか?」

「はい……」

 母親はスマートフォンを取り出し、想真の写真を見せた。

 黒い短髪。

 笑った顔。

 まだ幼さの残る、小さな男の子。

「この子です……」

「想真くんですね」

「はい」

 母親の指が、僅かに震えている。

「お願いします……」

 縋るような声だった。

 直充は写真から母親へ視線を移す。

「探してみます」

「ありがとうございます……」

 直充は軽く頭を下げ、その場を離れた。