シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

「あ、梨来さん」

 しばらくして希美が声を上げ、直充も振り向いた。

 書類を手にした梨来が、事務室へ戻ってくる。

 二人の姿を見つけた梨来は少し驚いたあと、直充へ目を向けた。

「直充くん」

「梨来さん」

「待っててくれたんだ」

「はい」

 その返事を聞いて、梨来の表情が柔らかくなる。

「私に用事?」

「はい。台車のことで」

「台車?」

「台車の番号は5です。ストッパーは掛かってるように見えたんですけど、少し動いてました」

「動いてたの?」

「はい。坂の近くだったので、別の場所に移してもらいました」

「そっか……」

「念のため、一度確認してもらった方がいいと思います」

「分かった。確認しておくね」

「お願いします」

 梨来は頷いてから、直充を見る。

「でも、やっぱりよく見てるねぇ」

「そうですか?」

「うん。ストッパーが掛かってるように見えたのに、動いてることに気づいたんでしょ?」

「……はい」

「そういうの、なかなか気づかないよ」

「たまたま見てただけです」

 梨来は小さく笑った。

「ちゃんと見てもらうね」

「ありがとうございます」

「じゃあ、俺は行きます」

「あ、直充くん」

「はい?」

「連絡先、希美ちゃんから聞いた?」

「はい。教えてもらいました」

「そっか」

 梨来が嬉しそうに笑う。

「これで、何かあったら直接連絡できるね」

「そうですね」

 そのやり取りを見ていた希美が、ふっと笑った。

「じゃあ、私も帰りますね」

「え?」

 梨来が振り向く。

「希美ちゃん、私に何か用事あったんじゃないの?」

「ありましたけど」

「?」

「今日はもう満足したので」

「満足?」

「はい」

「何に?」

「内緒です」

 希美は楽しそうに笑った。

「また今度、恋バナしましょうね」

「えっ」

「じゃあ、梨来さん。また!」

「ちょ、ちょっと希美ちゃん!」

 手を振りながら去っていく希美を、梨来はぽかんと見送った。

「もう……何なのぉ」

 直充も希美の背中を見る。

「何の話ですか?」

「えっ」

 梨来の肩が僅かに跳ねた。

「な、何でもないよぉ」

「そうですか」

「うん。何でもないの」

「…………」

 よく分からないが、本人がそう言うなら聞くことでもない。

「じゃあ、また」

「うん。またね、直充くん」

 直充は軽く頭を下げ、事務室をあとにした。