シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

 翌日。

 午後の講義を終えた直充は、大学の事務室を訪れていた。

 受付の奥へ視線を向ける。

 何人かの職員が行き来しているが、探していた姿は見当たらない。

「すみません」

「はい」

「梨来さん、いますか?」

「ああ、梨来さんなら今ちょっと席を外してますよ」

「そうですか」

 直充はもう一度、事務室の奥を見る。

 いないなら仕方ない。

 昨日の台車のことを伝えに来たのだ。

 戻ってくるまで待つ必要はない。

「あの、台車のことで――」

「あれ、直充さん?」

 聞き覚えのある声に振り向く。

「希美さん」

「何してるんですか?」

「事務室に用事があって」

「あ、私もです」

 希美は直充の隣まで来ると、事務室の中を覗いた。

「梨来さんいます?」

「今、席を外してるって」

「えー、いないんだ」

 希美が残念そうに肩を落とす。

「来る前に連絡しておけばよかったぁ」

 今日は梨来と恋バナをしようと、事務室までやって来たらしい。

 希美はスマートフォンを取り出した。

「直充さんは?」

「?」

「梨来さんに連絡しないんですか?」

「連絡?」

「戻る時間、聞けばいいじゃないですか」

 希美が瞬きをする。

「もしかして……」

「?」

「梨来さんの連絡先、知らないんですか?」

「知らない」

「え」

「…………」

「本当に?」

「……ああ」

 希美は直充を見つめる。

 直充も見返した。

 何かおかしなことを言っただろうか。

 やがて希美はスマートフォンへ視線を戻した。

『梨来さん、今どこですか?』

 少しして返信が届く。

「あ、もうすぐ戻るそうですよ」

「そうか」

 それなら。

 直充は受付へ向けかけていた身体を戻した。

「待つ」

「はい」

 希美は再び画面へ目を落とす。

『直充さんが梨来さんに用事あって来てますよ』

 送信。

 続けて、

『そういえば直充さん、梨来さんの連絡先知らないみたいです』

『教えてもいいですか?』

 しばらくして、スマートフォンが震えた。

「あ、返事きました」

「…………」

 画面を確認した希美が、直充を見る。

「直充さん、梨来さんの連絡先、知りたいですか?」

「…………」

 直充が少しだけ考える。

「考えたことなかったな」

「え」

 希美は直充を見つめた。

「じゃあ、教えますね」

「え?」

「梨来さんには、教えていいか確認したので」

「…………」

「はい、スマホ出してください」

 少し強引な希美に押されるように、直充はスマートフォンを取り出した。

「こういうのは知っておいた方が便利ですよ」

「そういうものか?」

「そういうものです」

 希美を介して、梨来の連絡先が直充のスマートフォンに登録される。

「はい。これで大丈夫です」

「……ありがとう」

「いえいえ」

 希美は満足そうに笑った。

 直充は登録された梨来の名前を一度だけ見て、スマートフォンをしまった。