シークレット―世界は守れますが、恋の仕方はわかりません―

「……っ!」

 直充が息を吸った。

 目の前。

 壁際の台車は、まだ止まっている。

「…………」

 戻った。

 直充は時計を見る。

 針は止まっていた。

 五分先。

 本当に見えた。

 そして。

 あの台車は動く。

「…………」

 時計を閉じ、すぐに鞄へ戻す。

 直充は先ほどの作業員へ向かった。

「すみません」

「……はい?」

「あの台車、やっぱり移動させてもらえませんか」

「…………」

 男性が台車を見る。

「いや、大丈夫ですよ」

「でも――」

「ストッパー掛かってますし、動いてないですよね?」

「…………」

 直充は口を閉じた。

 当然だ。

 この人は五分後を知らない。

 今の台車だけを見れば。

 何もおかしくない。

「念のため、場所を変えてもらえませんか」

「……何でですか?」

「…………」

 未来を見たから。

 とは言えない。

「このままだと危ない気がするので」

「危ないって……」

 男性が台車を見る。

 そして、直充を見る。

 明らかに困惑していた。

「いや、止まってますよ?」

「分かってます」

「じゃあ大丈夫ですって」

「…………」

 男性が戻ろうとする。

「お願いします」

 足が止まった。

「場所を少し変えるだけでいいので」

「…………」

「お願いします」

 男性はしばらく直充を見ていた。

 完全に。

 変な学生を見る目だった。

「……分かりましたよ」

 ため息交じりに言う。

「移動させればいいんですよね?」

「はい」

「どこに?」

 直充は、未来で台車が進んだ通路から外れた場所を指した。

「あちらにお願いします」

「…………」

 男性は納得していない様子のまま、台車へ向かう。

「ちゃんとストッパー掛かってるんだけどな……」

 小さく呟きながらストッパーを外し、台車を押した。

 大量の荷物を載せた台車が移動する。

 下り坂へ続く通路から外れた平らな場所で止め、再びストッパーを掛けた。

「これでいいですか?」

「はい」

「じゃあ、荷物には触らないでくださいね」

「分かりました」

 男性は首を傾げながら離れていった。

 少し先で、別の作業員と短く話す。

 二人が一瞬。

 直充を見る。

「…………」

 たぶん。

 変な学生だと思われている。

 別にいい。

 直充は腕時計を見た。