「濡れるし汚れるのは当たり前のことなんで、当番をやる気のない先輩は何も気にせず部活だけ頑張ってください」
「はぁ? 何それ嫌味」
余裕のある先輩が笑いながらナツ君にすごんだけど、ナツ君は私を背中に隠したまま、一歩も動こうとしなかった。
「あと先輩。小松さんのことは名字で呼んでもらっていいですか? すごく不愉快ですし彼女も嫌がってますよ」
「でもそんなの君に関係なくない?」
先輩も譲らないけどナツ君はもっと譲らない。今度はぐいぐい迫っていくから先輩は確実に後退していった。
「おかしいな、話通じてないのか。じゃあもっと簡単に言いますね」
すでに怯んでいるのに柔和な笑顔で更に先輩を追い込むと、ナツ君は彼の鼻先でこう言った。
「人の女にダル絡みしてんじゃねーよ」
先輩は言い返せることがもう何もなかったのか、逃げるように去ってしまった。
大胆なナツ君を前に呆然としたのち、じわじわと時間差できゅんが押し寄せてきた。あんな強引な先輩を黙らせてしまうなんて。それに私のこと彼女宣言したよね?
そんなことしていいの?
嬉しかったり戸惑ったりやっぱり嬉しかったりで、なんだかほわほわしてる。
だけど今度は昇降口辺りから女の子たちが騒ぐ声が聞こえてきて、それどころじゃなくなってしまった。
「由妃菜たちが見慣れないイケメンがいたって騒いでんのよ。小松さんといたって」
「えー、見たい。探す?」
「暇人かよ~、でもイケメンで涼みたいね」
ねぇ、噂になるの早くない?
この子たちって女バスだ。
女バレから女バスに噂が行ったら、隣のコートの女テニまで広まるのは時間の問題。
さっきまでの火照りが急速に冷めていった。



