その青は廻る

 それから少しして、また店先で偶然会ったとき、彼は僕を見てすぐに、「ついてこい」と言った。
相変わらず足りないけど、彼の中では成立してるし、僕も断る理由はない。

 店先から繁華街を抜けて、コインパーキングに停めてある一台の車へ彼は向かっていく。どんな車かとよく見たら、雑誌に出てくるような旧車だった。けど、どこもかしこも綺麗にされている。

『傷つけたら殺されそ……』とか思いながら、車に乗り込んだ彼を見て、右へならえと僕も車に乗った。
 車の中は飾りっ気がなかったけど、綺麗にされていて、さっぱりしてた。多分、彼の興味は車とか音楽なのかもしれないと思った。

 どこへ向かってるのか、聞くこともないし、言われることもない。けど、話しかければ、彼は応える。

「曲、できたんすか」

「とっくにできてる」

 でも、無愛想だし、少し落ち着かないようにも見える。あまり話しかけないように、景色を見たり、ラジオをかけたりしていた。

 そしたら、運転席の近くに、携帯が置かれていて、それには可愛いストラップが付けられていた。
『ははぁーん、さては女からの贈り物だね』とか探偵気取りで、格好つけてみた。

「彼女出来たんすか」したり顔でにやついていたら、彼が、「急になんだ」と言って、「お前はそれしか言えないのか」と軽く怒られた。

 ただの世間話なのに、どうも彼はそうじゃないらしい。

 ほんとに変わったやつだ。でも、悪い人ではない。そんなことを思ってるうちに、質素な四階建ての集合住宅前で車が止まった。

 別宅かなと思いながら、彼の背後について一室に入ると、部屋の中は生活感でいっぱいだった。

 狭い玄関先に置かれた赤いマウンテンバイク、短い通路の脇の小さなキッチン、その正面に浴室とトイレがある。

 十畳くらいのリビングの引き戸は外されて、鴨居には数枚の洋服がハンガーにぶら下がってる。入ってすぐ右側にクローゼット、左角にL字型の大きなデスクと椅子。正面の窓側に大きなベッドが置かれていて、その縁に背もたれをつけるように、ソファーとテーブルがあった。

「ちゃんと暮らしてるんだ」そう言うと、彼は鼻息を出して、乱暴に椅子へ座った。そして、ヘッドフォンを僕に突き出して、PCを操作していた。
 すぐにヘッドフォンを耳につけたら、彼の歌声が聞こえてきた。けど、僕が書いた歌詞の曲だった。