その青は廻る

 その日は彼から、毎日ボイトレに通うことと、体を鍛えろと言われた。それから、こうも言われた。

「お前が歌いたいものを作ってやる」

『うわ、俺様じゃん』と内心思ったけど、売れてるのは知っていたし、才能があることだけは認めてあげてもいい。けど……。

「諦めるなら、この話はなしだ」

 そこまで言うなら、受け入れなくもない。いや、正直に言えば、また歌えるかもしれない、と思ったんだ。

  できたら、今いる事務所を辞めたかったけど。

 次の日から、昼はボイトレに通って、夜は店へ行った。仕事もほとんどないし、することと言えば、店へ通うことくらいだから。

目的はただひとつだけど、未だに達成はしてない。
そんな日々を続けるうちに、店先で偶然、彼と顔を合わせることが増えて、徐々に二人で店へ入るようになった。

 店へ入ると、彼は僕に女の子をつけてくれたけど、彼は一切つけず、酒を飲みながら、ただ店の中を見回していた。いや、正確に言えば、酒を飲むというより、呷ってると言ったほうがいい。

『何しに来てんだ、こいつ』と思ったけど、口に出ていたみたい。

「お前は、何しに来てるんだ」静かな声で言って、ただ酒を飲む。

「えー、なんでだろー」と棒読みで答えたけど、彼は 「言いたくないなら、二度と聞かない」と言って、煙草を吸った。

 いちいち突っかかってくるやつだなあと思ったけど、よくよく考えたら、僕の情報を仕入れてる感じだった。

 仕事には細そう、とも思ったけど、それはまだ分からないし、もし知ったとしても、僕が変わることはない。

「妹を見つけたくて」

 そう言ったとき、彼は酒を飲むのをやめた。

「悪い、踏み込みすぎた」

「別に気にしないけど」

 多分、この会話がきっかけだったかもしれない。
そして、次の日から、少しずつ話をしてくれるようになった。

 けど、彼はあまり自分のことを話してくれない。僕が話せば、共感はしてくれる。多分、素で「男は背中で語るんだ」とか思ってそうだ。

 いや、正確に言えば、語れない。

 それでも仕事ができると思ってるのかもしれないけど、僕はそうじゃない。だから、会う度に話しかけた。

 好きな食べ物や嫌いなこと、趣味と仕事のこと、学生時代の話とか、色々した。ほとんど僕が喋ってたから、ある日怒られた。

「少し、黙れ」あの日の目をしてた。

 でも、僕は変えない。

「やだ。だって、話さないと何も分からないし」そう言った。

「わかった。明日までに歌詞作ってこい」と、彼は言ってから、店を出て行った。