その青は廻る

 僕が初めて出会ったのは、あの店先でのことだった。
 
 店の中で他の客と少し揉めて、黒服に追い出されたところで、思い切り殴られた。だから僕も殴り返したけど、ひ弱な体じゃ敵わなくて、ほとんど一方的に殴られていた。

 一応は抵抗したけど、猫が引っ掻いてるみたいで、相手にも笑われていた。そこに偶然割って入ったのが、佐伯龍騎だった。
 多分、彼は店に入ろうとしていただけで、目の前にいた僕たちを気にも留めずに歩いて来たんだと思う。
 相手の見事なストレートが決まったとき、彼は視線を上げて、相手をじっと睨んだ。

「邪魔だ、どけ」と、煙草を吸いながら、とても低い声で吐き出した。
 
 それはもう、誰も近寄れないくらい、彼は物々しい雰囲気を持っていた。
 相手は上げかけた手をすぐに下ろして、看板に八つ当たりして去って行く。それを見ながら、『ベタだなぁ……』とか他人事みたいに思ってた。

 彼は相手を威圧したあと、僕を一瞥してから、店へと向かっていく。
『まぁ、そうなるよな……』と胸の内で呟いて、その場所で空を見上げていた。

 どれくらいそうしたのか、よく覚えてないけど、気づいたら彼が目の前にいた。

「立てるか」と、僕の腕を掴んで、立ち上がるのを支えながら、「歩けるなら、ついてこい」とぶっきらぼうに言った。

『こえぇ……、まさか沈められる……?』と、悪い予感がした。けど、彼についていくと、ただのコンビニだった。建物の影で軽い手当をされたあとで、「ありがとう……ございます」と言うと、黙ったまま煙草を差し出してきた。

『え、毒でも盛られてる……?』と、また嫌な想像に寒気がしたけど、「うぃっす」と気安く返してから、煙草を吸った。

 彼とは初対面だったけど、彼のことは耳にしていた。同じ店で毎晩飲んで、女を取っ替え引っ替えして、遊んでいると。認めたくないけど、多分、いや、かなりモテると思う。さっきだって知らない僕を助けてくれたし、僕が女性ならきっと彼に惚れている。

「あの、治療代払います」そう言ったら、彼は「別にいい」と言って、「その代わりに、歌うたえ」と言った。

 どこで聞きつけたのか知らないけど、彼の交友関係が広いことを知った。けど、僕は事務所でも頭を抱えるほど、仕事をまともにしたことがない。そんな僕に歌えだなんて、無謀すぎると思ってた。