三年生は、本来なら半日で下校する日が増えていた。
授業も少なくなり、卒業までの時間が少しずつ短くなっていく。
それでも私は、できるだけ学校に残っていた。
翔も同じだった。
残された時間を、少しでも長く一緒に過ごしたかったから。
その日も、放課後の校庭には陸上部の声が響いていた。
後輩たちが、高跳びの練習をしている。
「翔先輩!」
声をかけられて振り返る翔。
「おぅ」
「先輩、ちょっと跳んでみません?」
「俺が?」
「はい!」
後輩たちが笑う。
翔が私のところへ戻ってくる。
「瑠夏、これ持ってて」
そう言って、着ていた制服のジャケットと鞄を私に渡した。
「え?」
「ちょっと跳んでくる」
「う、うん」
受け取ったジャケットには、翔の温もりが残っていた。
鞄を抱えたまま、私は翔を見つめる。
翔は少しだけ校庭を見つめた。
引退してから、もう跳んでいない。
「……久しぶりだな」
そう呟いて、助走路へ向かった。
私はその姿を見つめながら、胸が高鳴るのを感じていた。
翔が高跳びをする姿を見るのは、これが最後になるかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっとした。
翔がバーの高さを確認する。
「先輩、どのくらいにします?」
「……168で」
その数字を聞いた瞬間、私は息を止めた。
私の身長より、少し高い。
あの頃、二人で交わした約束の高さ。
翔がこちらを見る。
そして、ほんの少し笑った。
「瑠夏、見てて」
「……うん」
翔が助走を始める。
一歩。
また一歩。
そして、最後の踏み切り。
身体が宙へ浮く。
背中が反り、バーが翔の視界の下へ流れていく。
次の瞬間――
翔は、軽々とバーを越えた。
マットに着地する。
「先輩、すげぇ!」
後輩たちの声が響く。
でも、私の目には翔しか映っていなかった。
翔が起き上がる。
そして、私を見る。
あの日と同じ。
二人だけに分かる、あのサイン。
翔が胸に拳を当てて、トントンと二度叩く。
そして、親指を立てる。
私も、笑った。
胸の奥が熱くなって、涙がこぼれそうになる。
168cm。
私の身長を超える高さ。
翔が、私の背を越えていく高さ。
それはただのバーの高さじゃない。
私たちが交わした約束。
一緒に笑った時間。
これまで積み重ねてきた、二人だけの思い出。
その全部が、あの一本のバーに重なっているように思えた。
翔が近づいてくる。
「どうだった?」
私は笑いながら、涙を拭った。
「……すごかった」
「泣くなよ」
「だって……」
言葉が続かない。
翔は何も言わず、少しだけ笑った。
その笑顔を見て、私は思った。
この人を好きになって、本当によかった。
あの日、翔が跳んだ168cm。
きっと私は、一生忘れない。
そして――
この約束も。
ずっと、忘れない。
授業も少なくなり、卒業までの時間が少しずつ短くなっていく。
それでも私は、できるだけ学校に残っていた。
翔も同じだった。
残された時間を、少しでも長く一緒に過ごしたかったから。
その日も、放課後の校庭には陸上部の声が響いていた。
後輩たちが、高跳びの練習をしている。
「翔先輩!」
声をかけられて振り返る翔。
「おぅ」
「先輩、ちょっと跳んでみません?」
「俺が?」
「はい!」
後輩たちが笑う。
翔が私のところへ戻ってくる。
「瑠夏、これ持ってて」
そう言って、着ていた制服のジャケットと鞄を私に渡した。
「え?」
「ちょっと跳んでくる」
「う、うん」
受け取ったジャケットには、翔の温もりが残っていた。
鞄を抱えたまま、私は翔を見つめる。
翔は少しだけ校庭を見つめた。
引退してから、もう跳んでいない。
「……久しぶりだな」
そう呟いて、助走路へ向かった。
私はその姿を見つめながら、胸が高鳴るのを感じていた。
翔が高跳びをする姿を見るのは、これが最後になるかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっとした。
翔がバーの高さを確認する。
「先輩、どのくらいにします?」
「……168で」
その数字を聞いた瞬間、私は息を止めた。
私の身長より、少し高い。
あの頃、二人で交わした約束の高さ。
翔がこちらを見る。
そして、ほんの少し笑った。
「瑠夏、見てて」
「……うん」
翔が助走を始める。
一歩。
また一歩。
そして、最後の踏み切り。
身体が宙へ浮く。
背中が反り、バーが翔の視界の下へ流れていく。
次の瞬間――
翔は、軽々とバーを越えた。
マットに着地する。
「先輩、すげぇ!」
後輩たちの声が響く。
でも、私の目には翔しか映っていなかった。
翔が起き上がる。
そして、私を見る。
あの日と同じ。
二人だけに分かる、あのサイン。
翔が胸に拳を当てて、トントンと二度叩く。
そして、親指を立てる。
私も、笑った。
胸の奥が熱くなって、涙がこぼれそうになる。
168cm。
私の身長を超える高さ。
翔が、私の背を越えていく高さ。
それはただのバーの高さじゃない。
私たちが交わした約束。
一緒に笑った時間。
これまで積み重ねてきた、二人だけの思い出。
その全部が、あの一本のバーに重なっているように思えた。
翔が近づいてくる。
「どうだった?」
私は笑いながら、涙を拭った。
「……すごかった」
「泣くなよ」
「だって……」
言葉が続かない。
翔は何も言わず、少しだけ笑った。
その笑顔を見て、私は思った。
この人を好きになって、本当によかった。
あの日、翔が跳んだ168cm。
きっと私は、一生忘れない。
そして――
この約束も。
ずっと、忘れない。



