君のとなり 〜約束の168〜

いよいよ、私の受験の日が近づいていた。

前日の夕方。

新幹線に乗るため、私は駅のホームに立っていた。

明日の試験に向けて、少し早めに出発する。

だけど――

本当は、試験のことよりも。

今、この時間が終わってしまうことのほうが寂しかった。

「じゃ、行ってくるね」

そう言うと、翔は頷いた。

「おぅ。頑張ってこいよ」

いつもの笑顔。

その顔を見ていると、不思議と緊張が和らいでいく。

「……うん」

そのとき。

翔が自分のマフラーを外した。

「え?」

「これ、巻いとけ」

翔の手が、私の首元にマフラーを巻いていく。

ふわっと温かさに包まれる。

「でも、翔が寒いんじゃ……」

「俺は大丈夫」

そう言って、マフラーの端を整える。

「ちゃんとあったかくしろよ」

「……うん」

胸の奥まで、温かくなった。

そして翔は、私の両手を取った。

冷たくなった手を、両手でギュッと握ってくれる。

「瑠夏なら絶対大丈夫」

その言葉が、心の奥にまっすぐ届いた。

「……ありがとう」

泣きそうになる。

でも、泣きたくなかった。

明日はちゃんと笑って、試験を受けたい。

「じゃあ、行ってくる」

「ああ」

新幹線がホームに入ってくる。

私は一歩、乗車口へ向かった。

振り返る。

翔がそこにいる。

私だけを見ている。

新幹線に乗り込み、窓際の席に座る。

ゆっくりと扉が閉まった。

小さな窓から、翔の姿が見える。

私は手を振った。

翔も笑顔で手を振り返してくれる。

新幹線が動き出す。

少しずつ、翔の姿が遠くなる。

それでも最後まで、翔は笑っていた。

その笑顔を見つめながら、私は胸の中で呟いた。

大丈夫。

翔が応援してくれている。

だから――

絶対に、頑張る。

マフラーに残る翔の温もりを感じながら、私は前を向いた。