君のとなり 〜約束の168〜

文化祭が終わると、学校の空気は一気に変わった。

廊下を歩いていても、聞こえてくるのは、

「過去問、何年分やった?」

「次の模試、判定上げたいよな」

そんな言葉ばかり。

三年生にとって、いよいよ受験が現実になった。

私たちも、例外じゃなかった。

私は一月の試験に向けて、毎日のように机に向かった。

そして翔は、十一月下旬に総合型選抜試験を控えていた。

放課後。

図書室で向かい合わせに座っていても、以前みたいに話してばかりはいられない。

参考書を開いて。

問題を解いて。

分からないところを教え合って。

疲れたときだけ、そっと顔を上げる。

すると、向こうから翔がこっちを見ていることがあった。

目が合う。

それだけで、少しだけ笑う。

それが、今の私たちの日常だった。

「瑠夏」

「ん?」

「ちゃんと飯食ってる?」

「食べてるよ」

「ほんとか?」

「ほんと」

「ならいい」

そう言って、また参考書に視線を落とす。

そんな何気ないやり取りが、私は好きだった。

特別なことなんて何もない。

それでも、翔が隣にいる。

それだけで頑張れた。

そして十一月下旬。

翔の試験の日がやってきた。

私は試験会場へ向かう翔を見送った。

「頑張ってね」

「おぅ」

「翔なら大丈夫」

そう言うと、翔は少しだけ照れたように笑った。

「瑠夏もな」

「うん」

ほんの短い会話。

それでも、その日はずっと翔のことが頭から離れなかった。

ちゃんとできたかな。

緊張してないかな。

そんなことを考えながら、私は自分の勉強を続けた。

そして――十二月。

結果が出た。

「……受かった」

翔から届いたメッセージを見た瞬間、私は思わず声を上げた。

『本当に?』

すぐに返信する。

『ほんと。合格した』

画面を見つめながら、胸がいっぱいになった。

翔が合格した。

それだけで嬉しかった。

『おめでとう!』

そう送ると、すぐに返事が届いた。

『ありがとな』

たったそれだけなのに。

なんだか、翔の嬉しそうな顔が目に浮かんだ。

翔が進むのは、地元の大学。

スポーツ健康科。

高校で続けてきた陸上とは、また違った形でスポーツに関わっていく。

その未来を思うと、私まで嬉しくなった。

だけど。

スマホを握りしめたまま、ふと気づいてしまった。

翔には、もう次の春が決まった。

そして私も、これから受験を終えて、その先へ進んでいく。

今まで当たり前だった学校生活は、もう残り少ない。

一緒に登校して。

一緒に帰って。

教室で顔を見て。

放課後に少しだけ話して。

そんな毎日が、少しずつ終わりに近づいている。

嬉しいはずなのに。

胸の奥が、少しだけ痛かった。

『私も頑張らなきゃ』

そう打ち込んで送る。

すると翔から、

『一緒に頑張ろうな』

と返ってきた。

その言葉を見つめながら、私は小さく笑った。

うん。

一緒に頑張ろう。

残された時間を、大切にしよう。

今はまだ――

この隣にいられるから。