「失礼します」
三者面談を終え、私は教室の扉をゆっくり閉めた。
カチャリ、と小さな音が廊下に響く。
そのまま歩き出したけれど、足取りはいつもより重かった。
胸の奥が、落ち着かない。
今日の三者面談では、進路希望調査をもとに、志望校について先生と親と話し合った。
何度も考えた。
大学で何を学びたいのか。
新体操を終えたあと、私は何をしたいのか。
そして――モデルのこと。
あの日、突然声をかけられたこと。
名刺をもらったこと。
母と一緒に事務所を訪ね、大学に通いながら少しずつモデルの仕事をしていく可能性について話を聞いたこと。
いろんなことを考えて、迷って。
それでも最後は、自分で決めた。
私は、関東の大学へ進学する。
誰かに決めてもらったわけじゃない。
翔に合わせたわけでもない。
ちゃんと、自分の未来を考えて出した答えだった。
なのに。
教室を出てから、頭に浮かぶのは翔の顔ばかりだった。
――翔に、なんて言おう。
きっと、応援してくれる。
翔なら、
「頑張れよ」
って笑ってくれる。
そう思いたい。
でも――
関東。
今まで暮らしてきた場所から、遠く離れた場所。
そう考えた瞬間、胸がきゅっと苦しくなる。
今までみたいに、放課後に一緒に帰ることもできない。
「今日、どこ行く?」
そんな何気ない会話もできなくなる。
昼休みに屋上へ行って、一緒にお弁当を食べることも。
眠くなった私が、翔の肩に寄りかかることも。
帰り道、何気なく手を繋いで歩くことも。
「今日、会える?」
そんな約束だって、今までみたいにはできなくなる。
今までは、会いたいと思えば会えた。
手を伸ばせば、すぐ隣に翔がいた。
それが当たり前だった。
でも、これからは違う。
距離というものを、初めて意識した。
離れたくない。
翔のそばにいたい。
ずっと一緒にいたい。
そう思う。
だけど――
自分のやりたいことも、諦めたくない。
せっかく見つけた、自分の未来への道。
自分で決めたことを、翔のために諦めたくはなかった。
それは、きっと翔も望まない。
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥では、二つの気持ちが何度もぶつかっていた。
進みたい。
でも、離れたくない。
嬉しいはずの進路決定なのに、どうしてこんなに寂しいんだろう。
私は廊下の窓から外を眺めた。
秋の空が広がっている。
ふと、翔と一緒に見上げた屋上の空を思い出した。
「……翔」
小さく名前を呟く。
そして、スマホを取り出した。
翔とのトーク画面を開く。
いつもの名前。
いつものアイコン。
そこにいるだけで、少しだけ安心する。
メッセージを打つ。
『話したいことがある』
……違う。
消す。
もう一度、文字を入力する。
『今日、三者面談だったんだけど』
そこまで打って、また消した。
「……どうしよう」
スマホを握りしめる。
何度も書いては消して。
伝えたいのに、怖い。
そのとき、画面が光った。
翔からだった。
『三者面談終わった?』
思わず、胸が跳ねる。
まるで、私の気持ちを知っているみたいなタイミング。
しばらく画面を見つめてから、
『うん。終わったよ』
と返した。
送信したあと、指が止まる。
その先に続く言葉は、もう決まっている。
『関東の大学に行くことにした』
たったそれだけなのに。
送信ボタンを押せない。
翔に伝えたら、きっと未来が動き出す。
私たちの関係も。
今までと同じではいられなくなる。
画面を見つめながら、私は唇を噛んだ。
――どう伝えればいいんだろう。
自分で決めた未来なのに。
それを一番大切な人に伝えることが、こんなに怖いなんて。
私はまだ、送信ボタンを押せずにいた。
三者面談を終え、私は教室の扉をゆっくり閉めた。
カチャリ、と小さな音が廊下に響く。
そのまま歩き出したけれど、足取りはいつもより重かった。
胸の奥が、落ち着かない。
今日の三者面談では、進路希望調査をもとに、志望校について先生と親と話し合った。
何度も考えた。
大学で何を学びたいのか。
新体操を終えたあと、私は何をしたいのか。
そして――モデルのこと。
あの日、突然声をかけられたこと。
名刺をもらったこと。
母と一緒に事務所を訪ね、大学に通いながら少しずつモデルの仕事をしていく可能性について話を聞いたこと。
いろんなことを考えて、迷って。
それでも最後は、自分で決めた。
私は、関東の大学へ進学する。
誰かに決めてもらったわけじゃない。
翔に合わせたわけでもない。
ちゃんと、自分の未来を考えて出した答えだった。
なのに。
教室を出てから、頭に浮かぶのは翔の顔ばかりだった。
――翔に、なんて言おう。
きっと、応援してくれる。
翔なら、
「頑張れよ」
って笑ってくれる。
そう思いたい。
でも――
関東。
今まで暮らしてきた場所から、遠く離れた場所。
そう考えた瞬間、胸がきゅっと苦しくなる。
今までみたいに、放課後に一緒に帰ることもできない。
「今日、どこ行く?」
そんな何気ない会話もできなくなる。
昼休みに屋上へ行って、一緒にお弁当を食べることも。
眠くなった私が、翔の肩に寄りかかることも。
帰り道、何気なく手を繋いで歩くことも。
「今日、会える?」
そんな約束だって、今までみたいにはできなくなる。
今までは、会いたいと思えば会えた。
手を伸ばせば、すぐ隣に翔がいた。
それが当たり前だった。
でも、これからは違う。
距離というものを、初めて意識した。
離れたくない。
翔のそばにいたい。
ずっと一緒にいたい。
そう思う。
だけど――
自分のやりたいことも、諦めたくない。
せっかく見つけた、自分の未来への道。
自分で決めたことを、翔のために諦めたくはなかった。
それは、きっと翔も望まない。
分かっている。
分かっているのに。
胸の奥では、二つの気持ちが何度もぶつかっていた。
進みたい。
でも、離れたくない。
嬉しいはずの進路決定なのに、どうしてこんなに寂しいんだろう。
私は廊下の窓から外を眺めた。
秋の空が広がっている。
ふと、翔と一緒に見上げた屋上の空を思い出した。
「……翔」
小さく名前を呟く。
そして、スマホを取り出した。
翔とのトーク画面を開く。
いつもの名前。
いつものアイコン。
そこにいるだけで、少しだけ安心する。
メッセージを打つ。
『話したいことがある』
……違う。
消す。
もう一度、文字を入力する。
『今日、三者面談だったんだけど』
そこまで打って、また消した。
「……どうしよう」
スマホを握りしめる。
何度も書いては消して。
伝えたいのに、怖い。
そのとき、画面が光った。
翔からだった。
『三者面談終わった?』
思わず、胸が跳ねる。
まるで、私の気持ちを知っているみたいなタイミング。
しばらく画面を見つめてから、
『うん。終わったよ』
と返した。
送信したあと、指が止まる。
その先に続く言葉は、もう決まっている。
『関東の大学に行くことにした』
たったそれだけなのに。
送信ボタンを押せない。
翔に伝えたら、きっと未来が動き出す。
私たちの関係も。
今までと同じではいられなくなる。
画面を見つめながら、私は唇を噛んだ。
――どう伝えればいいんだろう。
自分で決めた未来なのに。
それを一番大切な人に伝えることが、こんなに怖いなんて。
私はまだ、送信ボタンを押せずにいた。



