君のとなり 〜約束の168〜

昼休み。

チャイムが鳴ると、私と翔はいつものように教室を出た。

向かったのは、屋上。

扉を開けると、秋の風がふわっと頬を撫でた。

夏の暑さが少しずつ遠ざかって、空気が心地いい。

二人で並んでベンチに座り、お弁当を広げる。

「いただきます」

「いただきます」

他愛のない話をしながら、お弁当を食べる。

翔のお弁当を覗き込んだり、私のおかずを見て笑ったり。

そんな時間が、私は好きだった。

「おいしかったぁ」

お弁当を食べ終えて、私は満足そうに息を吐いた。

「俺も。…午後も授業か……」

翔が空を見上げる。

「うん……」

私もつられて空を見る。

雲がゆっくり流れている。

なんだか、眠くなってきた。

ふわぁ……。

小さくあくびが出る。

「眠い?」

「昨日、遅くまで勉強してたから……」

「無理すんなよ」

「うん……」

少しだけ迷ってから、私は翔の肩を見る。

「ちょっとだけ休憩しよ」

「ん?」

私は翔の肩に、そっと寄りかかった。

「……ちょっとだけね」

「うん」

翔の声が、すぐ近くから聞こえる。

その声を聞いていると、不思議と安心する。

私は目を閉じた。

ほんの少しだけ。

そう思っていたのに――

あっという間に、眠りに落ちていた。

翔は、しばらく何も言わなかった。

肩に伝わる瑠夏の重み。

規則正しい寝息。

いつもは笑っている顔。

でも今は、安心しきったように眠っている。

翔は横目で瑠夏を見つめる。

「……頑張りすぎなんだよ」

小さく呟いた。

起こさないように、そっと肩に手を回す。

そして――

そっと唇を重ねる。

ほんの一瞬。

触れるだけのキス。

離れた翔は、少し照れたように笑った。

「……おやすみ、瑠夏」

もちろん、その声は瑠夏には届かない。

翔はそのまま、肩を貸し続けた。

眠っている瑠夏を起こすことなく。

ただ、隣にいる。

やがて――

午後の授業を知らせるチャイムが、屋上まで響いてきた。

「……瑠夏、起きて」

「ん……?」

眠そうに目を開ける。

「授業始まるぞ」

「……寝ちゃった?」

「うん」

「ごめん……」

「いいよ」

私は慌てて身体を起こした。

「肩、痛くない?」

翔は笑った。

「全然」

そう言いながら、心の中で思う。

――むしろ、ずっとこうしてたい。

「ほら、行くぞ」

「うん」

二人で立ち上がる。

教室へ戻るために歩き出す。

その距離は、いつもより少しだけ近かった。