君のとなり 〜約束の168〜

夏が終わり、少しずつ秋の気配が感じられるようになった。

放課後の教室。

窓の外は、もう夏の頃とは違う色をしている。

私と翔は、机を並べて勉強していた。

机の上には参考書とノート。

高校生活も、残り少なくなってきた。

翔がスマホを手に取った。

「俺さ、スポーツトレーナーになろうと思ってる」

私は翔を見る。

「……うん」

翔がスマホの画面を私に見せた。

そこには、大学の情報が表示されていた。

「だから、ここの大学のスポーツ健康科を目指す」

「翔、ちゃんと決めたんだね」

「うん」

翔は少し照れたように笑った。

「怪我したとき、いろいろ考えたんだ。リハビリしてるときとかさ」

翔は画面を見つめながら続ける。

「今度は俺が、怪我した人を支えられる側になりたい」

その言葉を聞いて、胸が温かくなった。

翔らしいと思った。

「翔なら、なれるよ」

「ありがと」

翔が笑う。

そして、ふと私を見る。

「瑠夏は?」

「……私?」

「うん。進路」

私は少し黙った。

「大学には行こうと思ってる。でも……その先が、まだ決まってなくて」

「そっか」

翔は、それ以上聞かなかった。

「焦らなくていいんじゃない?」

私は小さく頷いた。

でも、胸の奥では、ずっと考えていた。

――私のやりたいことって、何だろう。

大学に行く。

新体操は、高校で一区切り。

その先で、私は何をしたいんだろう。

その日の帰り道。

ふと、スマホを見る。

スマホカバーに挟んである、一枚の名刺。

あの日、インターハイで渡された名刺だった。

『モデルに興味はありませんか?』

あの言葉が、もう一度蘇る。

家に帰ると、両親にも話した。

「瑠夏がやってみたいなら、やってみたら?」

反対されているわけじゃない。

むしろ、背中を押してくれている。

だからこそ、迷った。

本当に、私がやりたいことなの?

それとも――

誰かに見つけてもらえたことが嬉しくて、気になっているだけなの?

名刺を指先でなぞりながら、私は考え続けた。

翔はもう、自分の進む道を見つけている。

私はまだ、その途中にいる。

同じ青春を走ってきたはずなのに。

少しずつ、私たちの未来は違う方向を向き始めていた。