君のとなり 〜約束の168〜

閉会式が終わったあと。

瑠夏は、翔と拓実先輩と三人で話していた。

拓実先輩は、相変わらず優しい笑顔で、瑠夏に言葉をかけてくれる。

「瑠夏、今日はよく頑張ったな。とっても綺麗だったよ。」

「ありがとうございます」

「本当に、すごかったぞ」

そんな三人のところへ、見知らぬ女性が近づいてきた。

「突然すみません。少しお話してもよろしいですか?」

「……はい?」

瑠夏が不思議そうに女性を見る。

女性は、柔らかく微笑んだ。

「先ほどの演技を拝見していました」

「ありがとうございます」

「とても素敵な演技でした。それで……」

女性が少し間を置いてから、瑠夏に尋ねる。

「モデルのお仕事に興味はありませんか?」

「……え?」

瑠夏は目を丸くした。

翔も、隣で女性を見る。

拓実も少し驚いたように、瑠夏へ視線を向けた。

女性から仕事の内容や事務所について、簡単な説明を受ける。

そして、女性は名刺を差し出した。

「一度、保護者の方と相談してみてください。もしご興味があれば、こちらにご連絡ください」

「……ありがとうございます」

瑠夏は名刺を受け取った。

けれど、まだ何が起きたのか理解しきれていない。

手の中の名刺を見つめる。

そこに書かれている言葉。

モデル。

「……私が、モデル?」

その様子を隣で見ていた翔は、最初は笑っていた。

――さすが、俺の彼女。

そんな誇らしい気持ち。

けれど、女性が去ったあと。

瑠夏の手の中にある名刺を見る。

モデル。

芸能の仕事。

知らない世界。

翔の胸の奥に、少しずつ何かが引っかかっていく。

「翔?」

「……ん?」

「どうしたの?」

「いや……」

翔は笑おうとする。

「すごいじゃん、瑠夏」

でも、その笑顔が少しだけぎこちない。

瑠夏は気づかない。

「私、まだよく分かってないんだけど……」

「うん」

「お母さんに相談してみようかな」

「……そうだな」

翔は頷く。

けれど、頭の中には、

――瑠夏がモデルになったら、どうなるんだろう。

そんな不安が生まれ始めている。

まだ反対するほどではない。

まだ「やめろ」と言う気もない。

ただ、

自分の知らない場所へ瑠夏が進んでいってしまうような気がした。