私は、インターハイまでコマを進めた。
あの日、県大会への切符を手にしたときから、ずっと目指してきた場所。
全国から集まった選手たちが、このフロアに立っている。
客席も、いつもの大会とは比べものにならないほど大きい。
その景色を見渡した瞬間、胸の奥が熱くなった。
ここまで来たんだ。
これまで何度も悔しい思いをして、それでも自分の演技と向き合ってきた。
思うように身体を動かせない時期もあった。
それでも、私はここまで来た。
今、このフロアに立っている。
観覧席には、翔と拓実先輩がいる。
大会を見に来てくれるという約束をしていた。
フロアでは、レオタード姿の選手たちが練習に入っている。
音楽が流れるたび、手具が空を舞うたび、会場いっぱいに張り詰めた空気が広がっていく。
その中で私は、自分の手具を確かめながら、静かに身体を動かしていた。
心臓は、少しだけ速く鼓動している。
緊張している。
それでも、不思議と怖くなかった。
今日の私は、今までの私とは違う。
積み重ねてきたものも、乗り越えてきたものも、全部この身体にある。
あとは、思い切りやるだけ。
「拓実先輩、本当に見に来たんですね」
「瑠夏と約束したからな」
そう言って、拓実はフロアに視線を戻す。
しばらく瑠夏を眺めていた拓実が、ぽつりと言った。
「……瑠夏、スタイルいいな」
「先輩!」
翔がすかさず反応する。
「変なとこ見ないでくださいよ」
拓実は楽しそうに笑った。
「何言ってんだ。新体操なんだから普通だろ」
「……」
「翔、お前ちょっと過保護じゃないか?」
「別に……」
なんて言いながら、翔はフロアから目を離さない。
私はふと、二階の観覧席を見上げた。
いた。
翔と拓実先輩。
目が合った瞬間、私は自然と笑顔になった。
小さく手を振る。
翔も、ほんの少しだけ手を上げてくれた。
やがて、私の名前が呼ばれた。
その瞬間、背後から大きな声が響いた。
「瑠夏先輩! ファイトー!」
振り返ると、後輩たちが観覧席から身を乗り出すようにして、手を振っていた。
「瑠夏先輩、頑張ってー!」
「瑠夏先輩ー!」
その声に、私は思わず笑った。
みんながいる。
翔も、拓実先輩もいる。
大丈夫。
私はフロアの中央へ歩いていく。
観覧席にいる翔が見えた。
その隣には、拓実先輩もいる。
二人が見ている。
それだけで、胸の奥に力が湧いてきた。
私は一度、深く息を吸った。
そして、顔を上げた。
いよいよ、私の演技が始まる。
曲が始まる。
ボールが、流れるように滑らかに動いていく。
私の指先から離れたボールが、空中を大きく弧を描く。
受け取る。
転がす。
身体をひねる。
一つ一つの動きが音楽と重なり、私自身が曲の中へ溶け込んでいく。
音楽に合わせて、ボールも私の身体も、一つの流れになっていく。
転がしたボールの際を、身体を低くして、スレスレのところで飛び越える。
あの怪我をした時の技。
一瞬だけ、あの日の痛みが頭をよぎる。
でも、もう止まらない。
今度は、怖くない。
私はそのまま、次の動きへつないでいった。
ボールは私の身体の周りを滑るように動き、私が走れば追いかけるように転がり、投げれば美しい軌道を描いて空へ上がる。
一瞬たりとも、流れを止めない。
身体を伸ばす。
回る。
跳ぶ。
そして、落ちてくるボールを、指先で受け止める。
まるで、ボールまで私の動きを知っているみたいだった。
観覧席から、翔も拓実先輩も、息をするのも忘れたように私を見つめていた。
「……本物の妖精みたいだな」
拓実先輩が、ぽつりと呟く。
翔は何も言わず、ただ頷いた。
最後のポーズ。
静かに身体を止める。
演技が終わった。
私は顔を上げた。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
会場いっぱいに、大きな歓声と拍手が響き渡った。
あちこちでフラッシュが光る。
私はその光の中で、ゆっくりと息を吐いた。
観覧席を見る。
翔と拓実先輩が、立ち上がって拍手を送ってくれている。
その姿が見えた瞬間、胸の奥がいっぱいになった。
大きなミスはなかった。
演技を終えた私は、息を整えながら、ほんの少しだけ空を見上げた。
やり切った。
そう思えた。
午後からのリボンの演技も、最後まで自分らしく、伸びやかに踊り切った。
結果は…8位。
名前を見つけた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
悔しい。
もっと上に行きたかった。
でも、不思議と涙は出なかった。
私は笑っていた。
今の私にできることは、全部やった。
その姿を、翔と拓実先輩は観覧席から見つめていた。
悔しさを抱えながらも、最後まで笑っている私を見て――二人とも、嬉しかった。
あの日、県大会への切符を手にしたときから、ずっと目指してきた場所。
全国から集まった選手たちが、このフロアに立っている。
客席も、いつもの大会とは比べものにならないほど大きい。
その景色を見渡した瞬間、胸の奥が熱くなった。
ここまで来たんだ。
これまで何度も悔しい思いをして、それでも自分の演技と向き合ってきた。
思うように身体を動かせない時期もあった。
それでも、私はここまで来た。
今、このフロアに立っている。
観覧席には、翔と拓実先輩がいる。
大会を見に来てくれるという約束をしていた。
フロアでは、レオタード姿の選手たちが練習に入っている。
音楽が流れるたび、手具が空を舞うたび、会場いっぱいに張り詰めた空気が広がっていく。
その中で私は、自分の手具を確かめながら、静かに身体を動かしていた。
心臓は、少しだけ速く鼓動している。
緊張している。
それでも、不思議と怖くなかった。
今日の私は、今までの私とは違う。
積み重ねてきたものも、乗り越えてきたものも、全部この身体にある。
あとは、思い切りやるだけ。
「拓実先輩、本当に見に来たんですね」
「瑠夏と約束したからな」
そう言って、拓実はフロアに視線を戻す。
しばらく瑠夏を眺めていた拓実が、ぽつりと言った。
「……瑠夏、スタイルいいな」
「先輩!」
翔がすかさず反応する。
「変なとこ見ないでくださいよ」
拓実は楽しそうに笑った。
「何言ってんだ。新体操なんだから普通だろ」
「……」
「翔、お前ちょっと過保護じゃないか?」
「別に……」
なんて言いながら、翔はフロアから目を離さない。
私はふと、二階の観覧席を見上げた。
いた。
翔と拓実先輩。
目が合った瞬間、私は自然と笑顔になった。
小さく手を振る。
翔も、ほんの少しだけ手を上げてくれた。
やがて、私の名前が呼ばれた。
その瞬間、背後から大きな声が響いた。
「瑠夏先輩! ファイトー!」
振り返ると、後輩たちが観覧席から身を乗り出すようにして、手を振っていた。
「瑠夏先輩、頑張ってー!」
「瑠夏先輩ー!」
その声に、私は思わず笑った。
みんながいる。
翔も、拓実先輩もいる。
大丈夫。
私はフロアの中央へ歩いていく。
観覧席にいる翔が見えた。
その隣には、拓実先輩もいる。
二人が見ている。
それだけで、胸の奥に力が湧いてきた。
私は一度、深く息を吸った。
そして、顔を上げた。
いよいよ、私の演技が始まる。
曲が始まる。
ボールが、流れるように滑らかに動いていく。
私の指先から離れたボールが、空中を大きく弧を描く。
受け取る。
転がす。
身体をひねる。
一つ一つの動きが音楽と重なり、私自身が曲の中へ溶け込んでいく。
音楽に合わせて、ボールも私の身体も、一つの流れになっていく。
転がしたボールの際を、身体を低くして、スレスレのところで飛び越える。
あの怪我をした時の技。
一瞬だけ、あの日の痛みが頭をよぎる。
でも、もう止まらない。
今度は、怖くない。
私はそのまま、次の動きへつないでいった。
ボールは私の身体の周りを滑るように動き、私が走れば追いかけるように転がり、投げれば美しい軌道を描いて空へ上がる。
一瞬たりとも、流れを止めない。
身体を伸ばす。
回る。
跳ぶ。
そして、落ちてくるボールを、指先で受け止める。
まるで、ボールまで私の動きを知っているみたいだった。
観覧席から、翔も拓実先輩も、息をするのも忘れたように私を見つめていた。
「……本物の妖精みたいだな」
拓実先輩が、ぽつりと呟く。
翔は何も言わず、ただ頷いた。
最後のポーズ。
静かに身体を止める。
演技が終わった。
私は顔を上げた。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
会場いっぱいに、大きな歓声と拍手が響き渡った。
あちこちでフラッシュが光る。
私はその光の中で、ゆっくりと息を吐いた。
観覧席を見る。
翔と拓実先輩が、立ち上がって拍手を送ってくれている。
その姿が見えた瞬間、胸の奥がいっぱいになった。
大きなミスはなかった。
演技を終えた私は、息を整えながら、ほんの少しだけ空を見上げた。
やり切った。
そう思えた。
午後からのリボンの演技も、最後まで自分らしく、伸びやかに踊り切った。
結果は…8位。
名前を見つけた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
悔しい。
もっと上に行きたかった。
でも、不思議と涙は出なかった。
私は笑っていた。
今の私にできることは、全部やった。
その姿を、翔と拓実先輩は観覧席から見つめていた。
悔しさを抱えながらも、最後まで笑っている私を見て――二人とも、嬉しかった。



