県大会。
私は、応援席から翔を見つめていた。
190センチ。
これが跳べたら、次の大会への出場がぐっと近づく。
翔は、ここまで戻ってきた。
アキレス腱を断裂して、一度は高跳びを辞めようとした。
そして今、中学生から続けてきた高跳びの大会に立っている。
一回目。
失敗。
二回目。
失敗。
もう、後がない。
私は祈るように両手を握った。
お願い。
跳んで――。
翔が助走位置に立つ。
いつものように、バーを見る。
走り出す。
踏み切る。
身体が宙へ上がる。
私は息を止めた。
――でも。
わずかに、バーが揺れた。
翔の身体がマットに落ちる。
少し遅れて、
カタン――。
バーが落ちた。
その音だけが、やけに大きく聞こえた。
*
翔
終わった。
悔しい。
ここまで戻ってきたのに。
あと少しだった。
なのに――届かなかった。
中学生から始めた高跳び。
怪我をして、一度は辞めようと思った。
それでも、もう一度跳びたいと思って、ここまで戻ってきた。
最後の大会。
最後の一本。
翔は、しばらくマットから起き上がれなかった。
*
しばらくして、翔はゆっくりと起き上がった。
そして、応援席を見た。
瑠夏と目が合った。
悔しいはずなのに。
翔は、少しだけ笑った。
そして、瑠夏に向かって手を上げる。
「ごめん。跳べなかった」
そんな顔をしていた。
その瞬間、涙が溢れた。
ただ、涙だけが止まらなかった。
私の中に、いろんな翔が浮かんできた。
中学生の翔。
私より跳べなくて、悔しがっていた翔。
「いつか、私の身長より高く跳んでね」
そう言った私に、笑って頷いた翔。
怪我をした翔。
高跳びから離れた翔。
一人で練習していた翔。
168センチを跳んで、あの約束を叶えた翔。
そして今――
190センチのバーの向こう側を目指した翔。
全部が、この一本につながっていた。
*
大会が終わったあと。
二人きりになった帰り道。
翔はしばらく何も言わなかった。
私も、何も言わなかった。
ただ、隣を歩いた。
やがて翔が、小さく呟いた。
「……終わっちゃったな」
私は何も答えなかった。
ただ、翔の隣にいた。
中学生の頃から、ずっと見てきた翔のジャンプ。
その最後の日も、私はここにいる。
それだけでいい。
翔の夏が、終わった。
私は、応援席から翔を見つめていた。
190センチ。
これが跳べたら、次の大会への出場がぐっと近づく。
翔は、ここまで戻ってきた。
アキレス腱を断裂して、一度は高跳びを辞めようとした。
そして今、中学生から続けてきた高跳びの大会に立っている。
一回目。
失敗。
二回目。
失敗。
もう、後がない。
私は祈るように両手を握った。
お願い。
跳んで――。
翔が助走位置に立つ。
いつものように、バーを見る。
走り出す。
踏み切る。
身体が宙へ上がる。
私は息を止めた。
――でも。
わずかに、バーが揺れた。
翔の身体がマットに落ちる。
少し遅れて、
カタン――。
バーが落ちた。
その音だけが、やけに大きく聞こえた。
*
翔
終わった。
悔しい。
ここまで戻ってきたのに。
あと少しだった。
なのに――届かなかった。
中学生から始めた高跳び。
怪我をして、一度は辞めようと思った。
それでも、もう一度跳びたいと思って、ここまで戻ってきた。
最後の大会。
最後の一本。
翔は、しばらくマットから起き上がれなかった。
*
しばらくして、翔はゆっくりと起き上がった。
そして、応援席を見た。
瑠夏と目が合った。
悔しいはずなのに。
翔は、少しだけ笑った。
そして、瑠夏に向かって手を上げる。
「ごめん。跳べなかった」
そんな顔をしていた。
その瞬間、涙が溢れた。
ただ、涙だけが止まらなかった。
私の中に、いろんな翔が浮かんできた。
中学生の翔。
私より跳べなくて、悔しがっていた翔。
「いつか、私の身長より高く跳んでね」
そう言った私に、笑って頷いた翔。
怪我をした翔。
高跳びから離れた翔。
一人で練習していた翔。
168センチを跳んで、あの約束を叶えた翔。
そして今――
190センチのバーの向こう側を目指した翔。
全部が、この一本につながっていた。
*
大会が終わったあと。
二人きりになった帰り道。
翔はしばらく何も言わなかった。
私も、何も言わなかった。
ただ、隣を歩いた。
やがて翔が、小さく呟いた。
「……終わっちゃったな」
私は何も答えなかった。
ただ、翔の隣にいた。
中学生の頃から、ずっと見てきた翔のジャンプ。
その最後の日も、私はここにいる。
それだけでいい。
翔の夏が、終わった。



