君のとなり 〜約束の168〜

大会前日の夜。

ベッドの中でスマホを握りながら、私は翔から届いたメッセージを何度も読み返していた。

『明日、頑張ろうな』

たったそれだけの言葉なのに、不思議と胸が温かくなる。

明日は、翔も大会。
私も大会。

同じ日に、それぞれ違う場所で戦う。

だから、応援には行けない。

『うん。翔も頑張ってね』

そう返すと、すぐに既読がついた。

『瑠夏もな。お互い、精一杯やろう』

その文字を見つめて、私は小さく笑った。

「……うん」

明日は、私も頑張ろう。

翔がいる場所で。

私がいる場所で。

それぞれが、自分の力を出し切るために。



大会当日。

会場の空気は、いつもとは違っていた。

張り詰めた緊張感。

周りから聞こえてくる声。

演技を終えた選手たちの表情。

私は深く息を吸った。

大丈夫。

今日まで練習してきた。

何度も繰り返してきた。

だから――

私は、私の演技をする。

翔も、きっと今頃。

自分の競技に集中している。

そう思うだけで、少しだけ勇気が湧いた。



そして、翔もまた。

走高跳の競技エリアで、静かにバーを見つめていた。

助走の距離を確認する。

一度、深く息を吐く。

周囲の声が遠くなる。

今は、自分との勝負。

助走。

踏み切り。

身体が宙へ浮く。

――バーを越えた。

歓声が上がる。

翔は着地すると、静かに息を吐いた。

まだ終わっていない。

次の高さへ。

翔はその高さを成功させた。

その瞬間、会場から大きな拍手が起こった。

翔は、ほんの少しだけ空を見上げた。

そして心の中で呟く。

瑠夏も、頑張ってるかな。



すべての競技が終わった。

結果が発表される。

私は掲示板の前で、自分の名前を探した。

そして――

そこにあった名前を見つけた瞬間、息を呑んだ。

優勝。

「……私……?」

信じられなくて、何度も見返す。

市内大会、優勝。

そして、県大会への出場が決まった。

胸の奥から、じわっと喜びが込み上げてくる。

嬉しい。

でも。

その瞬間、真っ先に思い浮かんだのは――翔だった。

翔も、どうだったかな。

スマホを取り出す。

すると、ちょうど通知が届いた。

『優勝した』

短いメッセージ。

私は思わず笑ってしまった。

『私も優勝したよ』

送信。

すぐに既読がつく。

『マジ? おめでとう』

『翔も、おめでとう』

少しして、またメッセージが届いた。

『じゃあ、二人とも県大会だな』

その文字を見つめながら、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。

同じ場所にはいなかった。

お互いの頑張っている姿も、直接見ることはできなかった。

それでも――

同じ日に。

それぞれの場所で。

私たちは、一緒に頑張った。

『うん。県大会も頑張ろうね』

送信すると、翔から返事が来た。

『もちろん』

たった一言。

なのに。

その言葉が、今の私には何より嬉しかった。