君のとなり 〜約束の168〜

3月。

卒業式から少し経った頃。

中学時代のクラスメイトが集まる、恒例の同窓会が開かれた。

このクラスでは、卒業してから毎年のように同窓会を開いている。

それくらい、みんな仲がよかった。

久しぶりに顔を合わせた瞬間から、店の中は懐かしい笑い声でいっぱいだった。

「うわー、久しぶり!」

「元気だった?」

「高校生活どう?」

そんな会話が飛び交う中、瑠夏を見つけた女子が、突然声を上げた。

「ねえ、ちょっと待って!」

「ん?」

「瑠夏、めちゃくちゃ可愛くなってない!?」

「え?」

「ほんとだ!」

「めっちゃ可愛くなった!」

「雰囲気変わったよね!」

「高校入ってから何があったの!?」

次々に言われて、瑠夏は困ったように笑った。

「そんな……変わってないよ」

「いや、変わったって!」

「絶対変わった!」

「なんかすごく女の子っぽくなった!」

「もう、やめてよ……」

真っ赤になる瑠夏に、みんなが笑った。

そのとき――。

「ふっふっふっ……」

一人の男子が、意味ありげな笑みを浮かべた。

「俺は、すっごい情報を握っている」

「なになになに?」

女子たちが一斉に食いつく。

「何それ!」

「早く言って!」

「もったいぶらないでよ!」

男子は得意げに周りを見渡した。

「俺らの学校にはな、体育祭でハチマキを交換して告白する伝統があってな」

「ええーーー!?」

「そんなのあるの!?」

「知らなかった!」

「でな」

男子はさらにニヤリと笑う。

「それをやった男が、この中にいる!」

「ええーーー!」

「誰!?」

「誰誰!?」

「めっちゃ気になる!」

男子は、ゆっくりと一人を指差した。

「それは……」

「それは?」

「翔、お前だ!!」

「えっ!?」

突然名前を出され、翔が目を見開く。

「俺!?」

「そう、お前!」

「なんで知ってんだよ!」

「同じ高校なんだから知ってるって!」

周りは一気に騒がしくなった。

「翔が!?」

「誰にハチマキ渡したの!?」

「それって告白したってことでしょ!?」

「待って、誰!?」

男子は、さらにもったいぶる。

「そしてなんと、受け取った女子は……」

「女子は?」

「誰なの!?」

みんなが身を乗り出す。

男子が、ゆっくり瑠夏を見る。

「瑠夏!」

「キャーーー!!❤️」

「ええええーーー!!」

「嘘ーーー!」

「瑠夏だったの!?」

「翔、やるじゃん!」

瑠夏は一瞬で顔が真っ赤になった。

「ちょっと……!」

隣では翔も、照れくさそうに笑っている。

「……まあ」

「まあ、じゃないでしょ!」

「それ、完全に告白じゃん!」

「青春すぎる!」

「すごーい!」

大騒ぎするみんなの中で、ふと一人の女子が思い出したように声を上げた。

「そういえばさ……」

「ん?」

「瑠夏って、その頃、連日告白されてたよね?」

「あーーー!」

「そうそう!」

「毎日のように誰かに呼び出されてた!」

「何人に告白されたか覚えてないよね!」

「放課後になると、また呼び出されてるって感じだった!」

「そうだった!」

瑠夏はますます恥ずかしくなって俯く。

「そんなにだったっけ……」

「そんなにだったよ!」

「しかも、どんどん可愛くなってたし!」

「そりゃ告白されるって!」

そして誰かが、翔を見る。

「……で、そのモテモテだった瑠夏を射止めたのが、翔ってこと?」

「そういうことじゃん!」

「すごーい!」

「翔、めっちゃ頑張ったんじゃん!」

「いや、ほんと!」

翔は少し照れながら、瑠夏を見る。

「……頑張ったよ」

「キャーーー!」

「何その顔!」

「翔、余裕じゃん!」

「もう彼氏だもんね!」

「もう……!」

瑠夏は真っ赤になって、翔の腕を軽く叩いた。

そんな二人を見ていた彩花が、ふっと笑う。

「……やっとか」

「え?」

瑠夏が振り向く。

「何が?」

彩花は二人を見ながら、呆れたように笑った。

「遅いよ」

「……彩花?」

「私、知ってたから」

「何を?」

彩花は少しだけ昔を思い出すように笑った。

「翔が、瑠夏のこと好きだったこと」

「……え?」

周りのクラスメイトたちも、一斉に翔を見る。

「え、翔って中学の頃から瑠夏が好きだったの!?」

「マジで!?」

「初耳なんだけど!」

彩花が笑う。

「私が翔に告白したことあったでしょ?」

「あった!」

「そのとき、翔に振られたの」

翔は少し照れながら、頷いた。

「うん」

「そのとき翔が言ったんだよ」

彩花が翔を見る。

「『好きな人がいる。瑠夏が好き』って」

「えええええーーー!?」

「中学の頃から!?」

「翔、ずっと好きだったの!?」

一気に騒がしくなる。

翔は、隣の瑠夏を見る。

瑠夏は驚いたように翔を見つめていた。

「……うん」

翔は、みんなの前でも隠すことなく答えた。

「中学の頃から、ずっと好きだった」

「うわーーー!」

「めちゃくちゃ一途じゃん!」

「え、何それ!」

「そんなの少女漫画じゃん!」

「瑠夏、めっちゃ愛されてるじゃん!」

瑠夏の顔が、また赤くなる。

「翔……」

「だって本当のことだろ?」

翔は少し照れながら笑った。

「俺、瑠夏のこと好きだったから」

その言葉に、みんながまた騒ぎ出す。

「もう、何その堂々とした彼氏!」

「今の翔、めっちゃ自慢げじゃん!」

「そりゃ自慢したくなるよね!」

「こんな可愛い彼女だもん!」

「もう一回、ハチマキ交換のところから聞きたい!」

「体育祭のとき、どんな感じだったの!?」

「そのあとどうなったの!?」

「初デートは!?」

「どっちから手繋いだの!?」

「キスは!?」

「ちょっと待って!」

瑠夏が慌てて声を上げる。

「なんでそこまで聞くの!?」

「恋バナだから!」

「全部聞きたい!」

「教えて!」

「嫌だよ!」

真っ赤になった瑠夏に、みんなが大笑いする。

その隣で、翔も楽しそうに笑っていた。

テーブルの下で、そっと瑠夏の手を握る。

瑠夏も、その手を握り返した。

中学の頃。

まだ恋人ではなかった二人。

それでも翔は、ずっと瑠夏を好きだった。

そして今は――。

その大好きだった女の子が、自分の隣にいる。

「……翔」

「ん?」

「もう……」

瑠夏はそれ以上、何も言えなかった。

ただ、少し照れながら笑う。

翔も笑った。

3月。

春の気配が近づいている。

二人の恋は、みんなに祝福されながら、また新しい季節へ進んでいく。