君のとなり 〜約束の168〜

新学期。

冬休みが明けて、いつもの学校生活が戻ってきた。

朝の廊下。

翔が拓実先輩を見つけ、足を止めた。

「先輩」

「ん?」

翔は制服のポケットから、小さなお守りを取り出した。

「これ」

拓実先輩が目を向ける。

「……俺に?」

「はい」

翔が差し出したのは、受験のお守りだった。

「この前、瑠夏と一緒に選んだんで」

その言葉に、拓実先輩の表情がほんの少しだけ揺れた。

「瑠夏が?」

「先輩に頑張ってくださいって伝えたいね、って」

翔はそう言って笑った。

拓実先輩は、お守りを見つめる。

嬉しかった。

瑠夏が、自分の受験を気にかけてくれていた。

それだけで、胸が温かくなる。

でも――。

本当なら。

瑠夏と一緒に選びたかった。

神社で並んで、いくつも並んだお守りを見ながら、

「これがいいんじゃないですか?」

なんて言われて。

「じゃあ、これにする」

そう笑い合いたかった。

そんな小さな願いが、もう叶わないことも分かっている。

「……ありがとう、翔」

拓実先輩は、お守りを受け取った。

翔は少しだけ笑って、

「それ、俺も一緒に選んだんで」

と言った。

そして、ほんの少しだけ声を落とす。

「大事にしてくださいよ」

拓実先輩は一瞬だけ翔を見る。

その言葉に込められた意味が、分からないはずがない。

「……ああ」

小さく笑う。

「大事にするよ」

翔も笑った。

嫌な空気にはならない。

ただ、お互いに分かっている。

瑠夏の隣にいるのは、今は翔だということ。

そして拓実先輩は、その現実を受け入れている。

「先輩」

「ん?」

翔が、まっすぐ拓実先輩を見る。

「受験、応援してます」

「……ありがとう」

拓実先輩は、お守りを握りしめた。

「二人とも、ありがとうな」

「はい」

翔が笑う。

拓実先輩も笑い返す。

そして、翔が先に歩き出した。

一人になった拓実先輩は、もう一度手の中のお守りを見る。

瑠夏と一緒に選んだお守り。

嬉しい。

本当に嬉しい。

それなのに――

胸の奥が、少しだけ痛かった。

「……一緒に、選びたかったな」

誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

それでも拓実先輩は、すぐに顔を上げた。

受験が待っている。

今は、自分がやるべきことを頑張るだけ。

お守りを制服のポケットに大切にしまって、拓実先輩は歩き出した。