君のとなり 〜約束の168〜

期末テストが終わって、数日後。

翔から連絡が来た。

『瑠夏、ちょっと話ある』

その一言に、何だろうと思いながら待ち合わせ場所へ向かう。

「翔?」

「……瑠夏」

翔は、いつになく神妙な顔をしていた。

「どうしたの?」

「この前のテスト……」

「あ……」

嫌な予感がする。

翔が、ため息をついた。

「本当に危なかった」

「え?」

「補講、決まった」

「……」

私は思わず翔の顔を見つめた。

「……翔、思ってたより本当にヤバかったんだね」

「だから言ったじゃん」

「でも……」

「でも?」

「笑っちゃダメなんだけど……」

堪えきれずに、ぷっと吹き出してしまう。

「瑠夏!」

「ご、ごめん……」

翔も一瞬むっとした顔をしたけれど――

「……俺も笑えてきた」

「ふふっ」

「ははっ」

気づけば二人で笑っていた。

笑いながら、翔が頭を掻く。

「ちゃんと勉強しないとな」

「うん。次は私がちゃんと見てあげる」

「よろしくお願いします、先生」

「もう」

また笑った。

そんな時間が、なんだか嬉しかった。

恋人になってから、こうしてくだらないことで一緒に笑えること。

それだけで幸せだった。

 だけど――。

 この冬、翔にはもうひとつ頑張らなければならないことがある。

 クリスマスまで、補講が続く。

 だから、しばらくの間は放課後に一緒に帰ることもできなかった。

 翔は学校で勉強。

 瑠夏は自分の部活や勉強。

 連絡は取り合っていたけれど、二人でゆっくり過ごす時間は、少し減った。

 クリスマスが過ぎ――。

 ようやく補講を終えた翔から、連絡が来た。

『瑠夏、やっと終わった』

 その文字を見ただけで、瑠夏の顔が自然と笑顔になる。

『お疲れさま』

 すぐに返事を送る。

 すると、間もなく翔から返信が届いた。

「これで補講終わったし……」

「うん?」

「初詣くらい行けるよな?」

私は顔を上げる。

「うん。一緒に行こう」

「約束」

「うん」

翔が嬉しそうに笑った。

* * *

年が明けた。

吐く息が白くなるほど冷え込んだ朝。

空から、白い雪が静かに舞い落ちていた。

待ち合わせ場所に着くと、翔が先に来ていた。

「瑠夏」

「お待たせ」

「寒いな」

「うん」

歩き出した私の手に、翔の手が重なる。

「……え?」

そのまま、ぎゅっと握られた。

「冷たい」

「翔の手、あったかい」

「瑠夏の手が冷たすぎ」

翔は笑いながら、私の手を自分のコートのポケットへ入れた。

その中で、二人の手が重なる。

「これならあったかいだろ」

「……うん」

ポケットの中で、指先が触れ合う。

ただ手を繋いで歩いているだけなのに。

胸が、少しだけくすぐったい。

雪が降る道を、私たちは並んで歩いた。

神社に着くと、境内にはたくさんの人がいた。

二人で列に並ぶ。

そして順番が来ると、並んで手を合わせた。

目を閉じる。

今年も、翔と一緒にいられますように。

新体操を頑張れますように。

そして――。

拓実先輩が、受験で力を出し切れますように。

いくつもの願いを胸に、静かに手を合わせる。

隣では翔も目を閉じていた。

翔はちらりと私を見る。

真剣な横顔。

何をお願いしているのか、少し気になった。

でも――聞くのはやめておいた。

お参りを終えて、お守りを見ていると。

「翔」

「ん?」

私はひとつのお守りを手に取った。

「拓実先輩の受験のお守りも買おう」

翔の動きが、ほんの少し止まった。

「拓実先輩の?」

「うん」

私はお守りを見ながら笑う。

「頑張れって伝えたいね」

翔は一瞬だけ黙った。

でも、すぐに小さく笑った。

「……うん」

「一緒に選んでくれる?」

「もちろん」

二人で並んで、受験のお守りを選ぶ。

「これがいいかな」

「こっちもよさそう」

「じゃあ、これにしよう」

「うん」

お守りを買う。

翔と一緒に選んだ、拓実先輩のお守り。

その小さな袋を、私は大切に握った。

* * *

帰り道。

雪はまだ降っていた。

冷たい風が吹いて、私は思わず肩をすくめる。

すると翔が、また私の手を取った。

そして、そのまま自分のポケットへ入れる。

「こっち」

「ふふっ」

「何?」

「翔、最近すぐ手繋ぐね」

「だって、彼氏だから」

「……またそれ」

「嫌?」

「ううん」

私は笑った。

ポケットの中で、翔の手を握り返す。

「……あったかい」

「だろ?」

二人の手が、コートのポケットの中で重なっている。

雪が降る静かな道。

しばらく歩いたところで、翔が私を呼んだ。

「瑠夏」

「ん?」

「今年もよろしく」

私は翔の横顔を見る。

そして、笑った。

「うん。よろしくね」

ポケットの中で、繋いだ手を少し強く握る。

翔も、同じように握り返してくれた。

高校二年の冬。

雪の降る帰り道。

私たちの恋は、静かに――

次の季節へ進んでいった。