期末テストが終わって、数日後。
翔から連絡が来た。
『瑠夏、ちょっと話ある』
その一言に、何だろうと思いながら待ち合わせ場所へ向かう。
「翔?」
「……瑠夏」
翔は、いつになく神妙な顔をしていた。
「どうしたの?」
「この前のテスト……」
「あ……」
嫌な予感がする。
翔が、ため息をついた。
「本当に危なかった」
「え?」
「補講、決まった」
「……」
私は思わず翔の顔を見つめた。
「……翔、思ってたより本当にヤバかったんだね」
「だから言ったじゃん」
「でも……」
「でも?」
「笑っちゃダメなんだけど……」
堪えきれずに、ぷっと吹き出してしまう。
「瑠夏!」
「ご、ごめん……」
翔も一瞬むっとした顔をしたけれど――
「……俺も笑えてきた」
「ふふっ」
「ははっ」
気づけば二人で笑っていた。
笑いながら、翔が頭を掻く。
「ちゃんと勉強しないとな」
「うん。次は私がちゃんと見てあげる」
「よろしくお願いします、先生」
「もう」
また笑った。
そんな時間が、なんだか嬉しかった。
恋人になってから、こうしてくだらないことで一緒に笑えること。
それだけで幸せだった。
だけど――。
この冬、翔にはもうひとつ頑張らなければならないことがある。
クリスマスまで、補講が続く。
だから、しばらくの間は放課後に一緒に帰ることもできなかった。
翔は学校で勉強。
瑠夏は自分の部活や勉強。
連絡は取り合っていたけれど、二人でゆっくり過ごす時間は、少し減った。
クリスマスが過ぎ――。
ようやく補講を終えた翔から、連絡が来た。
『瑠夏、やっと終わった』
その文字を見ただけで、瑠夏の顔が自然と笑顔になる。
『お疲れさま』
すぐに返事を送る。
すると、間もなく翔から返信が届いた。
「これで補講終わったし……」
「うん?」
「初詣くらい行けるよな?」
私は顔を上げる。
「うん。一緒に行こう」
「約束」
「うん」
翔が嬉しそうに笑った。
* * *
年が明けた。
吐く息が白くなるほど冷え込んだ朝。
空から、白い雪が静かに舞い落ちていた。
待ち合わせ場所に着くと、翔が先に来ていた。
「瑠夏」
「お待たせ」
「寒いな」
「うん」
歩き出した私の手に、翔の手が重なる。
「……え?」
そのまま、ぎゅっと握られた。
「冷たい」
「翔の手、あったかい」
「瑠夏の手が冷たすぎ」
翔は笑いながら、私の手を自分のコートのポケットへ入れた。
その中で、二人の手が重なる。
「これならあったかいだろ」
「……うん」
ポケットの中で、指先が触れ合う。
ただ手を繋いで歩いているだけなのに。
胸が、少しだけくすぐったい。
雪が降る道を、私たちは並んで歩いた。
神社に着くと、境内にはたくさんの人がいた。
二人で列に並ぶ。
そして順番が来ると、並んで手を合わせた。
目を閉じる。
今年も、翔と一緒にいられますように。
新体操を頑張れますように。
そして――。
拓実先輩が、受験で力を出し切れますように。
いくつもの願いを胸に、静かに手を合わせる。
隣では翔も目を閉じていた。
翔はちらりと私を見る。
真剣な横顔。
何をお願いしているのか、少し気になった。
でも――聞くのはやめておいた。
お参りを終えて、お守りを見ていると。
「翔」
「ん?」
私はひとつのお守りを手に取った。
「拓実先輩の受験のお守りも買おう」
翔の動きが、ほんの少し止まった。
「拓実先輩の?」
「うん」
私はお守りを見ながら笑う。
「頑張れって伝えたいね」
翔は一瞬だけ黙った。
でも、すぐに小さく笑った。
「……うん」
「一緒に選んでくれる?」
「もちろん」
二人で並んで、受験のお守りを選ぶ。
「これがいいかな」
「こっちもよさそう」
「じゃあ、これにしよう」
「うん」
お守りを買う。
翔と一緒に選んだ、拓実先輩のお守り。
その小さな袋を、私は大切に握った。
* * *
帰り道。
雪はまだ降っていた。
冷たい風が吹いて、私は思わず肩をすくめる。
すると翔が、また私の手を取った。
そして、そのまま自分のポケットへ入れる。
「こっち」
「ふふっ」
「何?」
「翔、最近すぐ手繋ぐね」
「だって、彼氏だから」
「……またそれ」
「嫌?」
「ううん」
私は笑った。
ポケットの中で、翔の手を握り返す。
「……あったかい」
「だろ?」
二人の手が、コートのポケットの中で重なっている。
雪が降る静かな道。
しばらく歩いたところで、翔が私を呼んだ。
「瑠夏」
「ん?」
「今年もよろしく」
私は翔の横顔を見る。
そして、笑った。
「うん。よろしくね」
ポケットの中で、繋いだ手を少し強く握る。
翔も、同じように握り返してくれた。
高校二年の冬。
雪の降る帰り道。
私たちの恋は、静かに――
次の季節へ進んでいった。
翔から連絡が来た。
『瑠夏、ちょっと話ある』
その一言に、何だろうと思いながら待ち合わせ場所へ向かう。
「翔?」
「……瑠夏」
翔は、いつになく神妙な顔をしていた。
「どうしたの?」
「この前のテスト……」
「あ……」
嫌な予感がする。
翔が、ため息をついた。
「本当に危なかった」
「え?」
「補講、決まった」
「……」
私は思わず翔の顔を見つめた。
「……翔、思ってたより本当にヤバかったんだね」
「だから言ったじゃん」
「でも……」
「でも?」
「笑っちゃダメなんだけど……」
堪えきれずに、ぷっと吹き出してしまう。
「瑠夏!」
「ご、ごめん……」
翔も一瞬むっとした顔をしたけれど――
「……俺も笑えてきた」
「ふふっ」
「ははっ」
気づけば二人で笑っていた。
笑いながら、翔が頭を掻く。
「ちゃんと勉強しないとな」
「うん。次は私がちゃんと見てあげる」
「よろしくお願いします、先生」
「もう」
また笑った。
そんな時間が、なんだか嬉しかった。
恋人になってから、こうしてくだらないことで一緒に笑えること。
それだけで幸せだった。
だけど――。
この冬、翔にはもうひとつ頑張らなければならないことがある。
クリスマスまで、補講が続く。
だから、しばらくの間は放課後に一緒に帰ることもできなかった。
翔は学校で勉強。
瑠夏は自分の部活や勉強。
連絡は取り合っていたけれど、二人でゆっくり過ごす時間は、少し減った。
クリスマスが過ぎ――。
ようやく補講を終えた翔から、連絡が来た。
『瑠夏、やっと終わった』
その文字を見ただけで、瑠夏の顔が自然と笑顔になる。
『お疲れさま』
すぐに返事を送る。
すると、間もなく翔から返信が届いた。
「これで補講終わったし……」
「うん?」
「初詣くらい行けるよな?」
私は顔を上げる。
「うん。一緒に行こう」
「約束」
「うん」
翔が嬉しそうに笑った。
* * *
年が明けた。
吐く息が白くなるほど冷え込んだ朝。
空から、白い雪が静かに舞い落ちていた。
待ち合わせ場所に着くと、翔が先に来ていた。
「瑠夏」
「お待たせ」
「寒いな」
「うん」
歩き出した私の手に、翔の手が重なる。
「……え?」
そのまま、ぎゅっと握られた。
「冷たい」
「翔の手、あったかい」
「瑠夏の手が冷たすぎ」
翔は笑いながら、私の手を自分のコートのポケットへ入れた。
その中で、二人の手が重なる。
「これならあったかいだろ」
「……うん」
ポケットの中で、指先が触れ合う。
ただ手を繋いで歩いているだけなのに。
胸が、少しだけくすぐったい。
雪が降る道を、私たちは並んで歩いた。
神社に着くと、境内にはたくさんの人がいた。
二人で列に並ぶ。
そして順番が来ると、並んで手を合わせた。
目を閉じる。
今年も、翔と一緒にいられますように。
新体操を頑張れますように。
そして――。
拓実先輩が、受験で力を出し切れますように。
いくつもの願いを胸に、静かに手を合わせる。
隣では翔も目を閉じていた。
翔はちらりと私を見る。
真剣な横顔。
何をお願いしているのか、少し気になった。
でも――聞くのはやめておいた。
お参りを終えて、お守りを見ていると。
「翔」
「ん?」
私はひとつのお守りを手に取った。
「拓実先輩の受験のお守りも買おう」
翔の動きが、ほんの少し止まった。
「拓実先輩の?」
「うん」
私はお守りを見ながら笑う。
「頑張れって伝えたいね」
翔は一瞬だけ黙った。
でも、すぐに小さく笑った。
「……うん」
「一緒に選んでくれる?」
「もちろん」
二人で並んで、受験のお守りを選ぶ。
「これがいいかな」
「こっちもよさそう」
「じゃあ、これにしよう」
「うん」
お守りを買う。
翔と一緒に選んだ、拓実先輩のお守り。
その小さな袋を、私は大切に握った。
* * *
帰り道。
雪はまだ降っていた。
冷たい風が吹いて、私は思わず肩をすくめる。
すると翔が、また私の手を取った。
そして、そのまま自分のポケットへ入れる。
「こっち」
「ふふっ」
「何?」
「翔、最近すぐ手繋ぐね」
「だって、彼氏だから」
「……またそれ」
「嫌?」
「ううん」
私は笑った。
ポケットの中で、翔の手を握り返す。
「……あったかい」
「だろ?」
二人の手が、コートのポケットの中で重なっている。
雪が降る静かな道。
しばらく歩いたところで、翔が私を呼んだ。
「瑠夏」
「ん?」
「今年もよろしく」
私は翔の横顔を見る。
そして、笑った。
「うん。よろしくね」
ポケットの中で、繋いだ手を少し強く握る。
翔も、同じように握り返してくれた。
高校二年の冬。
雪の降る帰り道。
私たちの恋は、静かに――
次の季節へ進んでいった。



