君のとなり 〜約束の168〜

期末テスト、最終日。

最後のチャイムが鳴った瞬間、教室のあちこちから一斉に声が上がった。

「終わったー!」

「やっと部活行ける!」

「今日どうする?」

みんなが答案用紙を提出して、次々と教室を出ていく。

私も鞄を持って、教室を出た。

廊下に出たところで――

「瑠夏」

後ろから声がした。

振り返る。

翔が立っていた。

でも……なんだか様子がおかしい。

「翔、どうしたの?」

「……ヤバい」

「え?」

翔が、ものすごく深刻な顔をしている。

「俺、今回ヤバいかも……」

「そんなに?」

「うん」

「テスト、そんなに難しかった?」

「いや……」

翔が気まずそうに目を逸らした。

「テスト期間に入る前、部活ばっかりやってて……ほとんど勉強してなかった」

「ええっ!?」

思わず声が大きくなる。

「ちょっと待って。全然勉強してなかったの?」

「……うん」

「翔……」

「だって、部活終わると疲れてるし」

「それでもテスト前なんだから、少しくらいはやらないと」

「分かってる……」

しょんぼりする翔。

普段はあんなに自信満々なのに。

こういうところは、ちょっと可愛い。

でも――本人はかなり焦っているらしい。

「このままだと……留年するかも」

「……え?」

私は固まった。

「留年?」

「いや、まだ決まったわけじゃないよ?」

「びっくりした……」

思わず胸を押さえる。

「でも、今回かなり危ないと思う」

「もう……」

私は呆れながら翔を見る。

「ちゃんと勉強しなきゃダメじゃん」

「うん……」

「次のテストはどうするの?」

「頑張る」

「本当に?」

「うん」

翔が頷く。

その顔を見ていると、なんだか放っておけなくなった。

「じゃあ……」

私は少しだけ考えてから、言った。

「次の学年末テスト、一緒に勉強しよ」

「え?」

翔が顔を上げた。

「私が教える」

「……瑠夏が?」

「うん」

「いいの?」

「だって……」

私は笑った。

「翔が留年したら困るもん」

「……瑠夏、優しい」

翔の顔が、ぱっと明るくなる。

「俺、頑張る」

「本当に?」

「うん!」

「じゃあ、約束ね」

「約束」

翔が嬉しそうに笑う。

その笑顔を見ていると、私まで嬉しくなった。

恋人になってから、初めて迎える冬。

文化祭で一緒に歩いたり。

手を繋いだり。

初めてキスをしたり。

今度は、一緒に勉強する。

そんなふうに、恋人として過ごす時間が少しずつ増えていく。

「瑠夏」

「ん?」

「俺、ちゃんと頑張るから」

「うん」

「次は絶対、こんな顔しない」

そう言って、自分の顔を指差す翔。

「どんな顔?」

「今の俺」

「ふふっ」

思わず笑ってしまった。

「じゃあ、期待してるね」

「任せて」

翔が胸を張る。

私はそんな翔を見ながら、笑った。

――このときの翔の「頑張る」が、いったいどこまで続くのか。

そんなことは、まだ知らない。

ただ今は。

「一緒に勉強しよう」

そう約束できたことが、嬉しかった。