愛してるの期限が切れる前に

 それから、玲桜は花の目を盗んで、百花に口づけるようになった。
 一緒に食事の後片付けをしているとき、洗濯が仕上がるのを待っているとき。サンルームの植物に水をあげているとき。

「可愛い」

 口づけたあと、必ず玲桜はその言葉を添える。

(はーちゃんに見られたらどうするのよ)

 まだ花には、玲桜のことを伝えていない。
 この関係を続けるなら、いずれは話さなければいけないことだった。

「来週の月曜日は東京に行ってくる」

 玲桜は家を空けるさいは、前もって伝えてくれる。
 その日も、先週話していた予定どおり、月曜日の朝に出かけていった。

「外に出るときは、十分注意して。護衛はつけておく」

 ドラマか映画の世界でしか聞かない台詞を、当たり前に使われる現実にはまだ慣れない。

(でも、そういうことなんだよね)

 花は狙われることなく毎日を送れているのも、玲桜の配慮のおかげだ。
 無許可の投稿も、玲桜から顛末を聞かされた。
 投稿者は、園に通っている保護者の親族で、入園式の動画で花を見てこっそりとSNSに上げてしまったそうだ。
 写真を上げた女子高生は、まさか法的責任を問われるとは思っていなかったようで、とても反省していると聞いている。この件で、彼女も学ぶものがあればいいと思う。
 伶桜が出かけた後、黒猫のあっちゃが花の相手をしてくれている間に、百花も身支度をした。
 最近は、「モモ」と呼ぶより「あっちゃ」と呼んだ方が反応がいい。玲桜も「あっちゃに改名するか?」とモモに尋ねていたくらいだ。

(あ、またこの番号)

 百花の携帯には、ときどき非通知や見知らぬ番号から電話がかかってくる。
 迷惑電話対策アプリを入れているので、登録している番号以外からの着信は、音もならない設定になっているが、それでも小那比番号から何度もかかってくれば話は別だ。

(誰だろ)