愛してるの期限が切れる前に

 あのあと、若森がどうなったかは知らないが、二度と百花の前に現れないことは約束されていた。
 若森程度の小物ならそれでいいが、今回の相手は玲桜の実父だ。
 実力もないくせに、鳳グループの頂点に立ちたいなど、己の器を知らない人間はろくでもないことを考える。
 祖父に認められたい一心で生きてきたような男は、我が子が祖父のお眼鏡に叶ったことが心底憎いのだ。
 自分が種を蒔いておきながら、気に入らないから刈り取ろうと躍起になる姿は、つくづく滑稽で愚かしい。
 だが、そんな事情は百花には関係ない。
 彼女は、花との平穏な生活を望んでいる。
 愛を伝えたところで、自分がその輪に入れる可能性は低いだろう。
 自分が彼女にした卑劣な行為を思えば、受け入れられなくて当然だった。
 それも、百花は玲桜の部屋で暮らしてくれている。
 花に触れることを許し、家族ごっこをさせてくれていた。

(これ以上は望んではいけない)

 だが、実際の振る舞いはどうだ。
 正論めいた御託を並べ立てたところで、たった一つの恋慕がそれらすべてを一掃した。
 百花たちの側にいたい。
 離れたくない。
 我が子の温もりを知ってしまったら、離れがたくなるのは当然じゃないか。

(あんなに愛くるしいのか)

 百花に感じる愛しさとは違う優しくて暖かな感情は、毎回玲桜に幸せにくれるのだ。
 見ているだけだった頃とはなにもかもが違う。
「れーちゃ」と呼ぶ声、笑いかける表情、抱きしめてと差し出してくる小さくてむちむちした二の腕、抱き上げる身体の小ささと柔らかさ。全身で玲桜を信頼してくれるのを感じるからこそ、一層庇護欲を駆り立てられる。
 離婚など絶対にしてなるものか。
 玲桜の想いは伝えたが、百花の反応は薄かった。
 なにが百花の足枷になっているのだろう。
 昔は、彼女に好かれている自負があったのに、今は不安でたまらない。