愛してるの期限が切れる前に

 腕を伸ばすと、花が抱きついてきた。ふわふわの髪に顔をすり寄せて、花の匂いを嗅ぐ。いつもの花の匂いに、ほんの少しだけこのマンションの移り香が混じっていた。
 伶桜は、同居するに当たり、特に気を配ってくれたのが花に関するものだ。花が使う物に関しては、すべてこれまで使っていたものと同じ銘柄で揃える徹底ぶりを見せた。

「ありがとう、あなたも朝から迷惑かけてごめん」
「俺が好きでしてることだよ。ももやはーちゃんといられるんだから、むしろご褒美だよ」

 家事と育児がご褒美だという根拠はよくわからなかったが、作ってもらった朝ご飯が格別に美味しいのは知っている。
 自分で作るようにならなければ、知り得ない幸せの一つだ。

(玲桜と暮らすようになって、贅沢ばかりさせてもらってる)

 こんな生活を覚えたら、二人だけになったとき苦労しそうだ。
 百花たちが暮らしていたアパートは、螺旋階段もなければ室内用の滑り台もない。サンルームにホットタブもなければ、植物園なみに置かれた観葉植物もないのだ。
 テーブルには、数種類のパンにサラダ、スクランブルエッグにウインナー、ミニトマト。あとはキウイフルーツとリンゴにヨーグルト。花用のトレイには、どれも一口でらべられる大きさになっていた。

(たこさんウインナーは、玲桜がしてくれたのかな)

 ヨーグルトも子ども用のものが出されていた。

「わざわざ買ってきてくれたの?」

 百花は、ここにやって来てから外に出たのは、昨日の一度きり。食材は日用品は玲桜がすべて揃えてくれるため、出る必要がなかった。

「銘柄は合ってる? 切り方とか味付けが違ったら、その都度教えて」

 本気で育児と家事を攻略しようとしている姿勢には、曖昧に笑うしかなかった。
 みんなのご飯の前に、花がモモ用の朝ご飯を置いた。

「どーじょ」