愛してるの期限が切れる前に

「可愛い、可愛いもも」

 行為の最中、ずっと伝えていたけれど、百花はどれだけ覚えているだろうか。
 新しい服代に、財布に入っていた紙幣をすべてテーブルの上に置いた。
 携帯には秘書になった熊谷からの不在着信がしつこいほど入っている。

「帰ったらちゃんと話そう」

 そう寝入る百花に囁き、玲桜はマンションを後にした。
 だが、そう玲桜の思いどおりにことは運ばなかった。
 鳳家の総帥である祖父が、玲桜にある部門の業績立て直しを命じたからだ。
 昨日の今日だ。
 すぐにでも百花に釈明したいことは山ほどあるが、状況がそれを許さない。
 玲桜が百花と出会えたのも、祖父の采配があってのことだ。そう思えば、多少なりとも頭が上がらない部分はあった。それに、祖父とはわりと馬が合う分、使われてやってもいいと思えてしまう。
 電話をしても、百花は出ない。
 焦燥だけが募っていく中、ようやく百花の元を訪れることができたとき、マンションはもぬけの殻になっていて、百花の消息は忽然と消えた。

 百花が自分の前からいなくなるなんて、考えもしなかった。
 逃げた、なんて夢にも思いたくない。

『は? 八つ当たりで無理矢理ヤって、金置いて出てきた? お前、馬鹿なの? 馬鹿じゃん。これだから童貞は! 余裕持てよっ』

 腑抜けになった玲桜を飲みに誘った熊谷は、事情を聞くなりそう玲桜を罵った。

『俺は童貞じゃない。初体験は百花だ』
『か――っ、なに小っ恥ずかしいこと真顔で言ってんだよ! 洒落になんねぇなっ』
『俺は真面目だ』
『そうだよなぁ、その顔で二十三まで一途に童貞守ってきたなんて、誰も信じないよなぁ。絶対冗談だと思うよなぁ』
『童貞童貞うるさい。冷やかしなら帰る』