愛してるの期限が切れる前に

 大事にしまってきたつもりだったのに――。
 悔やんでもどうしようもないとわかっていても、考えずにはいられない。
 あの日、もっと自分に冷静さがあれば、百花は玲桜の前から消えたりしなかった。

『ねぇ、この子。前に玲桜と一緒にいた子じゃなかったっけ?』

 大学に入ってから妙に纏わり付くようになった女が見せた写真。インテリな男が若い女の肩を抱いてホテルに入っていく様子を撮ったものだが、問題は構図じゃない。映っていたのは水島の税理士をしている若森という男と――百花だということだ。

『大人しそうな顔して、パパ活してるじゃん。やばっ』

 携帯を見ながらそう言って笑った女がどんな表情だったかんて、覚えていない。
 その写真が合成でもなく、現実を切り取った一枚であるという事実が玲桜を愕然とさせた。

『あっ、玲桜! どこ行くのっ。うちらと遊ぶんでしょっ!?』

 追いすがる女の声を無視して、玲桜は百花のところへ向かった。
 水島夫妻がフランスに移住し、一人暮らしをした途端、羽目を外したのか。それとも、以前から若森と関係があったのか。
 百花の心にあの男がいたなんて、冗談でも思いたくなかった。
 途中、土砂降りの雨に当たったが、そんなものがどうでもよくなるくらい、身体中が嫉妬で暑くなっていた。
 真実を確かめたい。
 その一心で、百花のいるマンションに行き、彼女の部屋番号を押した。

『玲桜? ……今日は、ちょっと』

 ならば、誰ならいい。
 あの男、若森なら喜んで迎え入れるというのか!
 玲桜だとわかった百花のためらった口調に、血管が切れるかと思った。

『今すぐ開けろ』

 いまだかつて、こんな高圧的な態度で接したことはなかった。
 施錠されると、足早に百花の部屋に向かった。この通路も若森が通ったかもしれないと辺りかまわず殴り壊してやりたかった。