愛してるの期限が切れる前に

「――っ」

 あやうくお茶を吹き出すところだった。
 手で口元を拭いながら、自分の顔がかなり熱を怯えているのがわかった。
 定まらない視線が、逃げ場を探している。

「え、っと……。その」

 延びてきた手が頬に触れた瞬間、おかしいくらい肩が跳ねた。

「許してほしいなんて言うつもりはないよ。だから態度で示すよ。二度とももを傷つけたりいないって。全力で君だけに愛を伝えてく。どれだけもものことが好きなのかも、はーちゃんを愛おしく思っているかも、君たち以上に優先するものなんてないってことも、全部見せてく。もも、今度こそ俺の全部を見て」

 近づいて来た美貌に、百花はたまらずぎゅっと目を瞑った。

「怖がらないで」

 そう囁くと、玲桜は百花の額に口づけた。

「考え直してくれる? 君たちと離れたくないんだ」

 なんて切ない声でねだってくるのだろう。
 息もできないくらいの緊張から解放されたくて、百花は夢中で首を縦に振っていた。

「嬉しい」

 そう告げた声は、喜びが滲んでいた。

❖❖

「おやすみ」

 逃げるように主寝室へ行った百花に手を振った玲桜は、一人だけになった空間でほうっと安堵の息をついた。

(――よかった……)

 どうにか、離婚を遠ざけることに成功した。
 万感の思いで掴んだこの幸福を、そう易々と手放すものか。

(長かった……)

 玲桜はソファに身体を倒し、天井を見上げた。ダウンライトで薄暗くなっているがグラスに反射する橙色の明かりを見るともなく眺める。

「あいつ、むかつくな」

 呼ぶ価値もない男だが、当時を思い出すたびに腸が煮えくり返ってしまう。
 百花は病弱だったこともあり、学校に通える期間も短く、世間一般より世間慣れしていない。百花自身、人と積極的にかかわるタイプではないこともあり、どこか浮世離れした儚さと、純真さを持つ玲桜だけの幼馴染み。