愛してるの期限が切れる前に

 怖くなった百花は、返事をためらった。
 玲桜の言う「あの日」は、百花の思う「あの日」で合っているのか。

「あ、あの日って?」

 おそるおそる尋ねると、玲桜がゆっくりと手の中から顔を上げた。

「ももにひどいことをした日のこと。同意も得ず、君を犯した」

 犯罪めいた言葉に、びくりと肩が震えた。
 それを見た玲桜が、顔をしかめた。

「嫌われて当然だよな」
「ちが……そうじゃなくて」

 あぁ、なんと言えばいいのだろう。

「怖いの」

 そう告げると、玲桜がぐっと目尻に力を込めた。

「逃げてばかりだったから、困難と向き合うのが怖いの」
「俺じゃなくて?」

 玲桜は百花の言葉は自分に向けられたものだと思っていた。再会するまでは、百花に値段をつけた玲桜も怖かった。また勝手に彼を誤解して想像と違っていた現実に傷つきたくなかった。
 けれど、玲桜は最初こそ強引だったけれど、そのあとはずっと優しかった。
 百花は小さく首を縦に振って見せた。

「ど……うして、お金――。私は十万円だった?」
「はっ!? 違うっ、なに言ってるんだ!」

 玲桜が立ち上がるなり、猛然と声を張り上げて否定の言葉を叫んだ。

「あれは、俺が破った服代だよっ。財布にあった有り金全部置いただけで、ももに値段をつけるわけないだろッ!!」
 見たこともないくらいの慌てように、百花の方が唖然となってしまった。

「服代だったの?」
「そうだよっ!」

 全力の肯定に、百花は面食らいながら玲桜を凝視した。
 玲桜がつけた百花の値段だと思っていたのが、実は服代だった。

(そんなことある?)

 あの状況で、枕元にお金が置かれていたらお金で済まされたのだと思うはずだ。
 けれど、百花は大事なことを見落としていた。
 玲桜はその聡明さから、結果に至るまでの過程を省いてしまう癖があることだ。

(服代? 十万円の服代)