愛してるの期限が切れる前に

「じゃ、お茶をお願いします」

 キッチン前のカウンターに、麦茶の入ったグラスが二つ置かれた。ここに来たときはなかった飲み物は、花のために常備するようになったものだ。
 椅子を引いて座るよう促される。

「ありがとう、いただきます」

 受け取って口をつける様子を、隣に座った玲桜がじっと見つめていた。今は髪も肌も元に戻している。パジャマ代わりにしているTシャツにスウェット生地のズボンを穿いて、カラーコンタクトを外した瞳は、百花の好きなモルフォ蝶色だった。
 こうして隣に座るのも、懐かしい感じがした。
 昔は当たり前だったものが、どれだけ貴重でキラキラしていたか、失ってからでなければ気がつけないなんて無情だ。
 だからこそ、一瞬一瞬を大事にしろとよく言われるのだろう。

「なに?」

 内心緊張しながら問いかける。
 ダウンライトの明かりが玲桜の物憂げな眼差しに影を落とし、ぞくっとする色気にドキドキした。

「こんな時間がもてるなんて夢かな、と思ってただけ。ももがいてくれて、はーちゃんと三人で暮らせてる。本当にこれが夢なら、俺は多分現実で死ぬよ」
「ちょっと言ってる意味がわからないかな」
「それくらい今、幸せだっていうこと。離婚はしないよ」

 玲桜ははっきりと離婚に反対の意を見せた。

「――どうして? 雑誌読んだよ。片想いしている人がいるって」
「もものことだよ」
「そう、リリ……、え?」

 間髪容れずに即答されたから、聞き流してしまうところだった。

「私?」

 目を丸くしながら玲桜を見た。面食らう百花に、玲桜が首を傾げて微笑む。

「もも以外に誰がいるの?」
「いや、だって――。ずっとって言ってたから」
「うん、ずっとだよ。水島家にやって来た日から、ゆっくりと俺の中で君の存在が大きくなっていったんだ」
「嘘、私なんにもしてないよ? ゲームしかしてなかったし」