愛してるの期限が切れる前に

 温室の中は、お洒落な中庭みたいになっていた。左右対称の幾何学模様を描く低木の中央には噴水があり、ガゼボまである。レンガの壁に這う蔦の前に置かれた茶色のベンチは、ちょっとした撮影スポットだ。青々とした針葉樹の木の根元を流れるのは、小川に見立てた用水路で、その周りにも様々な植物が茂っていた。区画ごとに異なる様相をした庭が一つ屋根の下に収まっている贅沢に、百花は目移りしてしまう。中でも目を引いたのが、タンサイボクの木だった。
 温室から続く中庭に出ると、そこにもロマンチックな景色が広がっていた。壁に見立てて選定された木の裏に続く小道を行けば、心地よい木陰とベンチがあった。控えめに咲く花たちについては、玲桜は一つ一つ丁寧に説明してくれた。
 優秀なのは知っていたが、玲桜は植物においても博識だった。
 眠った花を抱っこしながらは暑いし重いだろうに、玲桜は嫌な顔ひとつしない。それどころか、ときおり花の寝顔を愛おしそうに見つめていたりもした。
 だから、つい百花は庭に出る前に玲桜から渡された日傘を彼に翳した。

「日差し、強いね」

 そう言うと、玲桜は嬉しそうに笑っていた。

(私のしたことは正しかったのかな)

 鎮まった部屋で、百花は今日の出来事を思い出していた。
 自分たちが住んでいたアパートとはなにもかもが違う豪奢でお洒落な部屋を見るともなく眺めた。
 洒落たクッションに、サンルームに置かれた自然植物たち。壁掛けの大きなテレビは、桃形が使っていたテレビの倍はあった。照明器具ひとつとってもお洒落で、猫を飼っているのに部屋の空気が臭うことがない。ガラスに映る室内の風景で、自分だけが異質に見えた。
 玲桜の態度を見ていると、自分の選択肢が間違っていたのではと思ってしまう。もしかしたら、百花は彼が持てるはずだった子どもとの時間を一方的に奪ってしまったのではないか。