愛してるの期限が切れる前に

 花を産んだあの日に、玲桜もいたかもしれない。
 陣痛に苦しむ百花の横で、彼はどんな一日を過ごしただろう。
 腰をさすってくれただろうか。
 出産に立ち会って、百花の手を握って励ましてくれてただろうか。
 生まれたての花を見て喜んでくれてたならいいのに――。

(馬鹿ね。全部自分が投げ出したせいじゃない)

 心の強さはどこに行けば得られるのだろう。そんなスキルがあれば、百花はまっさきに取りに行くのに。獲得しに行くだろう。
 現実の世界は、ゲームみたいに簡単じゃなかった。
 一歩を踏み出す勇気がない者は、逃げ回っているしかないのか。



「寝かしつけは俺がするよ。お風呂まで入れてくれてありがとう。疲れただろう、あとはゆっくりしてて」

 そう言って、花を抱いて主寝室に入っていったのが一時間前のこと。
 百花はやたら大きなソファに身体を沈ませるように座って、眼前に広がる夜景を眺めていた。近くには猫のモモが丸くなっている。側に来ないのは、まだ百花を警戒しているからだろう。
 買ってもらったあざらしを抱きしめながら、「ばいばぁい」と手を振っていた時点で、花はかなり眠そうだった。お風呂から上がってもいつもならモモを追いかけ回しているのに、今日はソファの上でごろごろしていたのは、起き上がるだけの体力がなかったからだろう。

(たくさん遊んだものね)

 お昼を食べた後、花は芝生で玲桜が車に積んできたボールを投げて遊んでいたが、やがて疲れて寝てしまった。そのまま帰ってもよかったのに、玲桜が「温室見たくない?」なんて言うものだから、つい誘いに乗っててしまったのだ。