愛してるの期限が切れる前に

「また後で話そう。いいね」

 サングラスで視線は見えなかったが、険を含んだ口調は間違いなく怒っていた。
 せっかく気を利かせて楽しませてくれているのに、水を差すようなことしか言えない自分がすごく嫌だった。
 花はお土産店で自分の身長ほどあるアザラシのぬいぐるみを買ってもらい、ほくほく顔だった。よほど気に入ったのか、水族館を出てからもそれを放そうとはせず、玲桜がぬいぐるみを抱いた花を抱っこして歩くというかなりシュールな構図を披露していたが、玲桜も花も誇らしげな顔をしていた。

「はーちゃ、おなかちゅいたぁ」
「そういうと思って、おにぎり作ってあるよ。どこかで食べようか」
「こーえん!」

 花の元気な声に、いつもなら頷いていた百花だが、ちらりと運転席に座る玲桜をルームミラー越しに見た。
 先ほどの険悪さを引きずっている百花は、こんなときどういう態度でいればいいかわからない。人付き合いを避けてきたつけが回ってきていた。
 あぁ、相手は玲桜なのに、気疲れしている。

「とっておきの場所があるからそこに行こう」

 玲桜は、まるで気にしていない素振りでハンドルを切った。
 とっておきと言うだけあり、林道を走った先にあった場所に人はまったくいなかった。整地された芝生に一面ガラス張りの巨大な温室まであった。

「こんな場所があったなんて知らなかった」

 小高い丘になっていて、町の様子が一望できる。
 車で出かけない限り、来ない場所だ。

「うちの敷地だからね」
「え!? どこまでが?」
「見える範囲ずっとかな。爺さんの節税対策だよ。あとで温室も覗いてみようか」

 そう言うと、玲桜は「あそこがいいかな」と木の木陰に車に積んでいたレジャーシートを引いた。