愛してるの期限が切れる前に

 百花は玲桜を見た。
 二人が破局したという話は聞かない。

「結婚なんだけど、――期間限定ってことにしない?」
「どういう意味?」
「そのままの意味よ。この間は急すぎて考えが追いつかなかったけれど、私との結婚は、あなたが総帥に決まるまでの間ってこと。この結婚は、花の身の安全を保障するためでしょ?」
「そんなに俺が嫌い?」

 強ばった声に、百花は首を横に振った。
 線引きはきちんとしておくにこしたことはない。
 これ以上は駄目だと言われないと、自分はまた思い上がってしまうだろうから。
 百花は玲桜との結婚に明確な理由を持たせたかった。

「嫌いじゃないよ。でも、もう昔みたいには思えない。私たちは住む世界が違うもの。こんなふうに水族館を貸し切れたり、直通エレベーター付きのマンションに住むのは当たり前じゃないの」
「環境の話なんてどうでもいいよ。俺は君の俺をどう思っているかを聞いてるんだ。でも、嫌いと言われても離れてあげないよ」
「な――っ、玲桜?」

 答えが最初から決まっているなら、わざわざ気持ちを確認する必要があったのだろうか。
 あえて傷つきにやって来た玲桜の心の強さに唖然となった。

「言ったよね。俺の本気を見ててと。環境が別れる理由なら、俺が君たちの世界に行けばいいだけの話じゃないか」
「そういうわけにはいかないでしょ? だって」
「れーちゃ! ぺんぎんみたいー」

 花の声に、会話が途切れた。
 百花たちに手を振る姿に、二人はとっさに手を振り替えした。

(私たちの世界に来るですって?)

 百花たちの間には、越えることのできない壁がいくつもそびえ立っている。育った環境の違いからくる価値観は、そうそう変えられないものだ。
 口を閉ざした百花に、玲桜も何も言わない。

「いいよ、行こう」

 それでも駆け寄ってきた花を抱き上げると、愛おしそうにぎゅうっと小さな身体を抱きしめた。