愛してるの期限が切れる前に

 薄暗い館内には、水中にいるような泡の音が流れている。ひんやりとした空調は気持ちいいが、長時間いると寒くなりそうだ。
 頃合いを見て、花には上着を着せよう。

「サングラスだと見にくくない? 大丈夫」
「慣れてるから平気だよ。あ、はーちゃん。見て、お魚さんがいるよ」

 館内が暗いが、その分水槽は明るいおかげで、魚がよく見えた。

「おちゃかなちゃん! いっぱいねぇ」

 水槽のガラスに手をついて、食い入るようにイワシの大群の乱舞を見ていたかと思えば、底砂の上を歩く蟹の大きさに目を丸くさせ、側に寄ってきたアザラシに水槽越しににらめっこをしたりと大忙しだ。
 百花はここぞとばかりに、花の写真を撮った。

「ままぁ!」

 本当は駄目だが、今は誰もいないからこそ、少しくらい大きな声を出しても気にならない。人の目がないことでこんなにも開放的な気持ちになるなんて知らなかった。

(久しぶりに来たな。こんなに楽しかったっけ?)

 両親に連れられてきたときは、人の多さにうんざりした記憶しかない。
 それもこれも、自分の立ち位置が変わったからかもしれない。

「楽しい?」

 フロアをあちこち移動する花を眺めていると、玲桜がすぐ側に立っていた。

「うん、ありがとう。花がすごく楽しそうなのがよかった」
「少しは気晴らしになってくれるといいけど。毎日マンションの中じゃつまらないよね」

 そう言って、玲桜が肩をすくめた。

「ごめんね、いろいろ気を使ってくれてありがとう。正直すごく助かった」

 素直な感想を言えば、玲桜が「どういたしまして」と笑った。

「これまで水族館に来たことは?」
「花はまだない。両親が帰国したときに動物園には行ったかな。一人だとなかなか連れて行けないから」

 両親は、ビデオ通話で花と喋っていたおかげで、人見知りすることなく懐いてくれた。