愛してるの期限が切れる前に

「あ、本当だ。貸し切りプランっていうのがあるのね」

 閉館後から時間制限付きで貸し切ることができる水族館は意外とあった。

「それでも、この時間ははーちゃん、起きてられないと思う」
「今回は休日の昼間に貸し切るんだ。それくらいの権限はあるよ。安全面を考慮するなら、これくらい当然だよ」

 到底庶民の感覚ではついていけない提案だった。

「迷惑にならない?」
「ならない」
「足の具合はどうなの?」
「これが悪化しているように見える?」

 そう言って、玲桜はその場で跳ねてみせた。
 湿布を取り替えていたのも、鎮痛剤を飲んでいたのも最初の数日だけだ。花と一緒くたになって遊べるくらいなら、捻挫は治ったのだろう。もともと軽度と診断されていた怪我だ。

(よかった)

 この程度ですんで本当によかった。

「足の快気祝いも兼ねて、どうかな?」

 怪我をした本人からそう切り出されれば、百花はもうなにも言えない。
 ちらりと玲桜を見遣った。
 期待のこもったモルフォ蝶色の目が、百花の顔色を窺っている。
 花と出かけたいのだろうな、というのがひしひしと伝わってきた。
 なぜなら、玲桜は花にでれでれだからだ。
 玲桜のことを「れーちゃ」と呼び、抱っこをせがむ。アパートから持ってきたお気に入りの絵本を見せては、モモを「あっちゃ」と呼んだ。
 ブランコも滑り台も、玲桜が家にいるときは、玲桜と遊びたがるくらい、玲桜は花をかまいたおしていた。
 この提案も、花の喜ばせたいという思いからに違いない。

「……よろしくお願いします」

 贅沢を享受するのにはためらいがあったが、せっかくの機会だからと玲桜の提案を受けることにした。
 花には当日まで水族館に行くことは伏せておく。
 でなければ、はしゃいで熱を出すかもしれないからだ。