愛してるの期限が切れる前に

「水族館?」

 それは、玲桜のマンションに越してきた翌週のことだった。
 婚姻届は、マンションに越してきた翌日に玲桜が提出し、無事受領された。
 晴れて夫婦にはなったが、花には、「しばらく百花の友達の”玲桜君”の家にお泊まりする」と話した。いきなり結婚すると言っても理解できないだろうし、「あなたのパパよ」なんて言えるわけがない。
 玲桜は寂しそうな顔をしていたけれど、納得はしてくれているようだった。
 保育園には事情を話し、当面休園することとなった。園長先生は、何度も電話口で花の心配をしてくれていた。
 花が保育園に行けないなら、百花も仕事には行けない。
 正社員でないため、百花は離職するしかなかった。その日から、花とマンションに缶詰状態になった。
 玲桜は、こうなることも見越していたのか、一階にプレイルームまで準備してくれていた。
 滑り台やブランコを前に、花の目がかつてないほど興奮で輝いていた。
 が、それも三日もすれば慣れてしまう。
 モモこと「あっちゃ」も、花の遊び相手にはならず、花が「外に出たい」とぐずっていた矢先の提案だった。
 正直、心が揺れた。
 外で思いきり花を遊ばせてやりたい。
 だが、保育園を休園してまでこもっている理由を考えれば、すぐには頷けなかった。

「それって、玲桜も一緒なんだよね?」

 せめて、玲桜だけでも離れてくれたら。そう思う自分の狡さが嫌になる。

「俺と一緒にいたくない?」

 そうではない。そんなわけがなかった。

「目立つ……のは、ちょっと」
 心の中で何度も「ごめんなさい」と詫びながら、そう言うのがやっとだった。

「大丈夫、貸し切りにするよ」

 考えもしない提案に、百花は面食らった。

「そこまでしなくても」
「貸し切りは特別なことじゃないよ。ほら、見て」

 そう言って、玲桜がスマホの画面を翳した。