愛してるの期限が切れる前に

 百花の好きなものを否定することなく受け入れてくれる玲桜の存在は、新鮮で、ときめきに満ちていた。
 庭に咲いたあじさいがしとしとと雨に濡れる日も、晴れ間にできた虹を見つけたときも、玲桜は百花の側にいた。うだるような暑さの中、セミの鳴き声が響くようになった頃には、お互いの存在が感じる距離が当たり前になっていた。
 玲桜との関係は、誰にも言わなかった。
 話す相手もいないし、外では他人の振りをするよう玲桜と約束したからだ。

「俺のせいで、ももが嫌な目に遭うのが嫌なんだ」

 その意味を、百花は多分、正しく理解できていたと思う。
 彼の見た目は周りから飛び抜けている。当然、そんな彼と知り合いだとバレれば、彼に近づきたい人が百花を介して近づこうとするだろう。
 それは、人との交流が苦手な百花にとって苦痛しかない。
 だからこそ、玲桜はあんな約束をしたのだ。
 百花は中学に上がって、昔よりは身体も丈夫になり、学校に行ける日も増えたが、不思議と玲桜と外で会うことはなかった。
 それは、玲桜は百花が学校に行っている間も離れにこもっているからで、出会って三年年になるが、いまだに彼がどうして百花の家にいるのか知らない。
 聞いてはいけない気がしたのと、知らなくても百花たちの関係は十分成り立っていたから、大した問題には思えなかった。
 百花は玲桜のことをなにも聞かなかった。
 モルフォ蝶色の瞳のことも、どこの学校に通っているのかも、彼の事情も。
 なにも知らなくても、同じ時間は過ごせる。
 百花が三次元の人間には興味を覚えないのも、玲桜を知ろうとしなかった理由だったのだろう。
 他人で、友人で推しに似ていて、家族のような玲桜が醸す雰囲気は心地よく、彼の隣にいるのが好きだった。

(ずっとこの関係が続けばいいのに)

 一緒に過ごす時間が増えるほど、百花の中での玲桜の存在も膨らんでいた。