愛してるの期限が切れる前に

「ぜ、ぜんぜんいいよ! 問題ないっ。むしろコスプレとかしてほしい!」
「いや、女装はしないよ。でも、ももがするっていうなら、考えてもいいかな。この子とかどう?」

 そう言って、玲桜が画面に出したのは、猫耳をしたキャラクターだった。

「えぇっ、無理だよ! こんなに可愛くないしっ。それを言うなら、玲桜はこっちの子になってほしいな!」

 百花も負けじと玲桜にコスプレしてほしいキャラクターを表示させた。
 そうして、二人でああだこうだと言っているうちに、玲桜の秘密を知った衝撃も忘れてしまった。


 昔のことを思い出したのは、玲桜のマンションにタイサンボクの切り枝が飾られていたからだ。
 花こそついていないが、見慣れた葉は庭にあったタイサンボクのものだとわかった。
 牛乳を拭いたタオルを洗面所で洗っていた百花は、ガラス瓶に挿してあったタイサンボクの枝を見つけた。

(懐かしいな)

 玲桜と住んでいたあの家は、両親がフランスに移住するのを機に、人に貸した。
 今でもタイサンボクの木は、花を咲かせているだろうか。
 百花は、物心ついたときから嗅ぎ慣れていたが、慣れない人だと苦手だと思うかもしれない。

(私の部屋からもよく見えたんだよね)

 百花は、幼い頃から病気がちで、学校も度々休んだ。玲桜も同じ屋根の下で暮らしていたから、百花の事情は知っていた。
 けれど、彼はそれを煩わしいことと捕らえることなく、「そういうもの」として百花に接してくれていた。変に気遣おうとしないフラットな態度が、百花にはありがたかった。

(多分、そのときには玲桜に恋してた)

 ありのままの百花を受け入れてくれる、奇跡みたいに綺麗な人。
 容姿もさることながら、百花が引かれたのは丁度いい距離感でいてくれたその人柄だ。一緒にいても気負わないでいられる空気感が心地よかった。