愛してるの期限が切れる前に

【第三章 モルフォ蝶】


 玲桜との関係は、父が水島家に彼を招き入れたときから始まった。

「鳳 玲桜君だ」

 その日、百花はリビングでゲームをしていた。
 玲桜は艶やかな黒髪に重そうな前髪をした、痩躯な体躯だった。百花の知らない学校の制服を着ていた。

「鳳 玲桜です」

 少年と青年の両方を混ぜ合わせたような声音に、一瞬見えた黒い瞳。
 調子がいい日に行く学校のクラスの男子とは一線を画する存在に覚えたのは、見知らぬ者に対する警戒心と、完成された美貌への驚きだった。
 彼は自分とは住む世界が違う、と瞬間敵に本能が悟っていた。
 人見知りな百花はなんと返事していいかわからず、ただ父の言葉に小さく頷いた。すると、父が少し困った顔になった。

「彼がこの家にいることを許してもらえるか? 離れに住んでもらおうと思っているんだ」

 百花の家は、二階建ての建物と平屋が通路で繋がっている。平屋の方は亡くなった父方の祖母が使っていたが、今は空き部屋になっていた。
 また頷いて、百花は画面に視線を戻した。
 すると、玲桜はリビングのソファに座った。てっきり自室に入るのだと思っていた百花は、内心「嫌だな」と思っていた。
 父も、二人を残してどこかへ行ってしまった。
 玲桜がなにも話さないなら、百花からも話しかけたりしない。
 黙々とゲームを続け、百花がエリアボスを倒したときには、玲桜はいなくなっていた。(部屋に入ったのかな)
 玲桜の姿がいなかったことに、百花は少しだけほっとした。
 それからも、百花は玲桜と特別親しくなる気は起きなかった。
 会えば挨拶をするし、食事も一緒にする。
 クラスの男子みたいにうるさくないのはありがたかったが、「なんだかやたら綺麗な子が家にいるな」という程度の認識だった。