愛してるの期限が切れる前に

「ちょっと待って。解約って? 勝手に決めないで。それに足!」
 怪我をしたのだから、今日くらいは安静にしていて欲しい。
(しかもアパートを解約って、本気なの?)
 百花たちが暮らすアパートは、セキュリティの面では万全とは言えない。オートロックで出入りする人を制限しているわけでもなければ、コンシェルジュもない。
 玲桜の言い分はわかるけれども、今朝まで普通に生活していた場所が、今は危険区域だと言われているようでもやもやする。あそこは百花が四年かけて作ってきた小さな城でもあるのだ。
 視線を下げると、玲桜が怪訝な顔になっていた。
 あぁ、玲桜にはこの侘しさがわからないのだ。
 彼は、百花が感じているアパートへの愛着心が理解できないのかもしれない。
「危険なのはわかったよ。一所懸命になってくれるのもありがたいと思ってる。でも、なんの相談もなしに私たちのことを決められるのは、ちょっと……」
 自分のことなら、なおさら自分で決めたい。
 百花が知っている玲桜は、百花の意見を尊重してくれていたのに、今はそれを感じられないでいた。
 百花がなにに戸惑っているかは共感できなくても、抱えた不満は伝わったのだろう。
「そう、だね。ごめん。性急すぎた。ももの暮らしを軽んじてたわけじゃないんだ。ただ、俺も必死で」
 申し訳なさそうに項垂れる姿に、悪意は感じられない。
 きっと花を気遣う気持ちが先走ってしまっているだけなのだ。
 玲桜が心の機微に疎いことは知っている。ならば、ここは百花から歩み寄る場面だ。
「うん、花を想ってのことだよね」
 ごめんね、と詫びると、玲桜は強く首を横に振った。