愛してるの期限が切れる前に

 促され、おずおずとマンションに足を踏み入れた。
「すご……、え? 螺旋階段って、二階もあるの? マンションだよね?」
 玄関ドアを入ってすぐ右手に見えた螺旋階段に目が点になる。ワンフロアにリビングとキッチン、ダイニングがあり、最奥にはバルコニーへの出入り口があった。青々と茂る緑に、本当に最上階なのかと目を疑いたくなる光景だ。
(あ、やっぱり無理かも)
 のっけから価値観の違いを見せつけられて、うまくやっていける気がしない。
(これが玲桜の当たり前なんだ)
 今まで、水島家でしか玲桜と過ごしてこなかったから、彼がどんな環境で暮らしているかまでは想像してこなかった。
「わぁぁっ!」
 花はすでに広い部屋に大はしゃぎしていた。
「ももたちの寝室は二階の主寝室を使って。ベビーベッドも搬入してあるよ」
 その用意周到さには、もうなにも言えなかった。
 結婚を承諾したのはつい数十分前の出来事なのに、もう生活道具が揃えられている現実を、どう受け止めればいいのだろう。
 じっと玲桜を見ると、視線に気づいた彼が朗らかに笑った。
「どうかした?」
「いや、あの……そんなに急いで準備してくれなくてもいいよ。ないならないで、どうとでもなるし。荷物を取りに行くときに持ってくればいいだけの話で」
 アパートには花のお気に入りの絵本やおもちゃもある。百花の大事な物も置いてある場所を、準備もなく何日も空けたくなかった。
 そう説明すると、玲桜は「そうだね」と承諾してくれた。
「それなら、今から取りに行こう。じきあそこは解約することになるだろう。人をやろうと思っていたけれど、ももたちが望むならそうしよう」