愛してるの期限が切れる前に

「いいよ。このボタンを押してくれる?」
 玲桜が花を受け取り、ボタンを押しやすいよう壁際に寄った。
「もしかして、直通エレベーター?」
「他人と顔を合わせずにすむし、防犯にもなる」
 さもいいことをしているような口調で言われても、密室で襲われることを示唆されたようで怖い。直通エレベーターで行くような部屋を買える玲桜の経済力にも慄いた。
 エレベーターを降りると、正方形の空間の最奥には両開きのガラス扉があり、遠目からでもお洒落な室内が見えた。
「着いたよ」
 当たり前に扉を開けた玲桜に、戸惑いが隠せない。
 エレベーターを出てすぐ玄関がある構造なんて初めて見た。
 だが、花は別のものに釘付けになっていて。
「あっちゃ!!」
「えっ!?」
 下ろせと腕の中で暴れ出した花に慌てた玲桜が急いで花を床に下ろすと、花が透明な玄関扉に飛びついた。
 扉の向こうに座る長毛の黒猫に、百花も「あっ」と声を上げた。
「その子、なんで?」
 指さすと、玲桜が「あぁ、モモのこと?」と言った。
「モモ?」
「俺の飼い猫なんだ。この間まで脱走してて大変だった」
 そう言って、玲桜が慎重に玄関を開けると、するりと隙間を縫ってやって来たモモが、玲桜の足に纏わり付いてきた。
「あっちゃ!」
 花が必死に話しかけているが、モモは玲桜に夢中だ。撫でてくれと何度も身体を擦りつけている。
(脱走……、納得だわ)
 飼い猫だろうとは思っていたが、まさか玲桜が飼い主だったなんて。
 玲桜は身体で扉を支えながら、片腕にモモを抱き、反対の手で花を手を繋いだだ。
「ももも、入って」
「お邪魔します……」