愛してるの期限が切れる前に

 彼がうちにいた理由について、両親から正確なことは聞かされていない。もしかしたら、知っていた可能性もあるが、百花を動揺させないためにあえて黙っていたのかもしれない。
「そ――ん、なこと」
 嘘だと、百花は目を見開いたままゆるゆると首を横に振った。
 玲桜は座席の収納ボックスからクリアファイルに挟まった一枚の書類とペンを取り出した。
 婚姻届だった。
 玲桜が記入する欄は、すでに埋まっている。
 彼はいつからこれを用意していたのだろう。そして、車にまで持ち込んでいる事実に、玲桜の並々ならぬ執着心を感じずにはいられなかった。
 転倒事故は偶然でも、この結末にたどり着くことは玲桜の中では想定されていたことに違いない。
 まるで玲桜の手のひらの上で踊らされている気分だった。
「もも、俺と結婚しよう。そうすれば、俺が君たちの盾になれる。ももは、今なにを優先させるべきか、考えて答えを出して」
 そんなの決まっている。
 花の安全だ。
「そのための結婚? それじゃないと駄目なの? 私は――」
 食い下がると、玲桜が言葉を被せてきた。
「俺が嫌いでも、花を守る同志にはなれるだろう? 結婚という契約があれば、君たちは俺の庇護を受けられるんだ。君たちを守るためだ。決断できるよね」
 玲桜が言わんとしていることは理解できている。
 花を守るための結婚。百花の代わりに玲桜に守ってもらうための契約だ。
 人に値段をつけるような人を信頼したくない。
 けれど、百花は花を愛している。この子が危険な目に遭うかもしれないと思うだけで、胸が張り裂けそうだ。
「本当に、それで花を守れるの? 誘拐されない!?」